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本書は、一九六二年二月に、「近代日本の思想家」シリーズの一冊として、書下ろしで出版された。この間、新たに定本版漱石全集が刊行され、漱石研究もまた一段と深まり、諸種の研究書が出ている。しかし、それにもかかわらず、わたしが本書でこころみた漱石理論はすこしも古びてはおらず、またわたしが取出した問題は簡単に解決されるようなことでもない。、近代日本を真剣に生きてきた漱石の問題がまた現代人の関心に深くつながるということでもある。漱石の問題は、現代のような激動期においては、いよいよ真剣に問わるべき普遍的な課題をひめていると思う。わたしは、若い学徒が本書によって漱石理解をすすめ、漱石の問題に情熱を傾け、漱石がかつて為したように、将来の日本のために問題の先取りに進み出られるならば、著者としては本望といわなければならぬ。(「UP選書におさめるにあたって」より)
目次
UP選書に収めるにあたって
序説
第一章 作家以前の思想形成/一 古典的教養――江戸町人文化と漢書/二 英文学と近代個人主義/三 厭世主義と慈憐主義/四 漂泊――Xなる人生/五 ロンドンの経験――方法論的自覚
第二章 大学の講義――文学理論の構築
一 形式論/二 内容論/三 十八世紀英文学――批評論/四 価値論
第三章 初期の作品
一 文学的出発――『吾輩は猫である』と『漾虚集』/二 『鶉籠」と『野分』/三 職業作家の誕生――『虞美人草』/四 一つの転機――『坑夫』『文鳥』『夢十夜』
第四章 第一の三部作
一 『三四郎』――『永日小品』/二 『それから』――『満韓ところどころ』/三 『門』
第五章 社会と自分
一 修善寺の大患――『思ひ出す事など』/二 職業論/三 現代文明論/四 社会観/五 現代道徳論
第六章 第二の二部作
一 『彼岸過迄』/二 『行人』/三 『こころ』/四 『私の個人主義』
第七章 晩 年/一 『硝子戸の中』前後/二 『道草』/三 『明暗』
夏目漱石年譜
夏目氏系譜
主要参考文献
あとがき