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片山潜をめぐる評価は大きく二つに制れている。一つは、言うまでもなく、片山を日本の労働運動および社会主義運動の創設者であり、もっともすぐれた指導者であったのみでなく、コミンテルンの執行委員会幹部会員として、世界の革命運動の輝ける星であった、とする評価である。これに対してもう一つの評価は、少なくとも一九一四年にアメリカに亡命するまでの片山は、きわめて温和な社会民主主義者であり、帝国憲法の下で社会主義を実現しうると考えた改良主義者であって、決して革命的な社会主義者ではなかったし、労働運動や社会主義についても、かれをすぐれた創設者と認めることはできない、と主張するものである。
私はこのような二つの評価は、いずれも一面的ではないかと考えている。かれは労働者の現実から離れて思考することは苦手だったのであり、それがまたかれを労働者と密着させたのである。
本書では一九六〇年までに利用できた『自伝』と『自伝草稿』と「歩いてきた道」の三つを参照したが、その後、久しく幻の自伝といわれてきた『わが回想』が発見されて、一九六七年に日本で出版された。
本書の執筆に当っては、片山の自伝を参考にはしたが、できるだけそれぞれの時点での著書・論文によって、その時点でのかれの思想と行動とをとらえることに努めた。そのため日本のみならずアメリかにおける資料の蒐集にもつとめた。もっとも本書は元来「近代日本の思想家」という叢書の一冊として書かれたので、かれの伝記を出生から晩年まで正確に記述しようとするより、かれの思想の形成と行動の姿勢を明らかにすることを課題としている。(「はしがき」より)
目次
はしがき
第一章 社会的キリスト教への閉眼
一 貧乏・学問・成功 二 在米十三年 三 社会的キリスト教 四 新帰朝者として
第二章 労働運動の指導者として
一 労働運動の序幕 二 労資協調論 三 労働者への信頼 四 労資協調への疑惑
第三章 社会主義への道
一 社会主義への目覚め 二 改良家の道 三 社会主義の運動 四『我社会主義』
第四章 インターナショナリズムの確立
一 渡米協会 二 万国社会党大会 三 テキサスの農場経営
第五章 社会主義の火を点して
一 分派の発生 二 暗い谷間の中で 三 羊の皮をきた狼
第六章 共産主義者への歩み
一 社会主義左翼への参加 二 共産主義者として
第七章 むすび
片山潜年譜
片山潜主要著作目録
参考文献
あとがき