咲いてこそ花、枯れてこそ命
これぞ生きた証
この小説は、大学病院を舞台に、ひとりの老人が入退院を繰り返すなかで、命を全うするまでの医療現場を描いた渾身のドラマである。
著者が専門とする「摂食機能療法科」は、全国29の大学歯学部のなかで唯一、日本大学にある学科。
一般に歯科といえば虫歯治療、矯正歯科、口腔外科、インプラント科等が知られるが、
この摂食機能療法科とは、「口から食べる」ことに特化した治療やリハビリをするところである。
病気や事故で口から食べることが困難になった患者は、点滴や胃瘻で命をつなぐ。
たんに生きながらえれば良いのではなく、生きることの「質」が問われる時代では、
手足のリハビリがあるように、食べる機能にもリハビリの原理を応用することで、
ふたたび口から食べることができるようにする摂食機能療法は、
生きることの意味を満ちたものにしうる療法であり、それが「命のワンスプーン」といわれる所以である。
脳神経外科、消化器系内科の患者であろうとも、最後の砦は結局は「摂食」なのである。