将棋は、決断のゲームである。無数の選択肢から、一手を選ぶ。
将棋は、明快なゲームである。残酷なまでに白黒がはっきりとつく。
しかし、単純な「結果」にたどり着くまでの間に、無数の思いが凝縮されている。
だからこそ、将棋は物語の宝庫なのだーー。
超豪華執筆陣による「決断」をテーマにした傑作将棋小説アンソロジー。
青山美智子「授かり物」
「俺、東京に行く。漫画家になるんだ」
二十歳の天才棋士と同じ日に生まれた、平凡な我が子。初めて知る息子の夢に戸惑う芳枝だったが――。
葉真中顕「マルチンゲールの罠」
将棋の強さにだけは自信があった。
思い出話をきいてくれ。
あの日、俺は頼まれたんだ。
「天才」かもしれない少年を、この道場から追い出してほしいと――。
白井智之「誰も読めない」
名人戦、第五局。一日目の対局が終わり、ひと息ついた挑戦者が、
拉致された。連れ去った人物は、挑戦者に頼んだ。
ある殺人事件の犯人を見つけてほしい――、と。
橋本長道「なれなかった人」
元・天才棋士の青柳は、アマチュアとしてプロ棋戦を勝ち上がってきた段という男と対局する。彼は、青柳が三十年前に奨励会から蹴落とした相手だった。因縁の再戦を前に、二人がした約束とは。
貴志祐介「王手馬取り」
「両家の父が結婚式に来なかった」
井上家で未だに残る謎を解決するのは、元真剣師を名乗る老人で――
芦沢央「おまえレベルの話はしてない(大島)」
奨励会員の息子を持つ男性が自己破産申請にやってきた。担当する弁護士の大島は自分も元奨励会員で事情もよく分かり、あと一歩のところまで順調に手続きが進んでいたが――。
綾崎隼「女の戰い」
「朱莉さんって銀みたいな人ですよね」
数少ない女性奨励会員として奮闘する倉科朱莉の、苦悩と成長の日々。
奥泉光「桂跳ね」
菅原香帆の日録に記された、将棋を通じた友との交歓の日々。
桂跳ねに込められた、友人の悲愴な決意とは。