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小説家としての谷崎潤一郎の名前を超えて、ひろく、長く読まれてきた「陰翳礼讃」―― 陰翳とは何か。それが日本的なものだとはどういうことか。「陰翳礼讃」は創元選書の表題作になったことを契機に、谷崎潤一郎という小説家の個人的な随筆から、知識階級の読む日本文化論へと進化(グレードアップ)した。「陰翳礼讃」というテキストは、「文化」を謳う一九三〇年代の知的な教養の中に位置づけられたのである。「陰翳礼讃」は、命題として何が語られているかだけでなく、何事かを語るレトリックそれ自体を読み解くベきテキストである。「陰翳礼讃」で行われているのは、建築を文学を語るための比喩として組織すること、すなわち建築を文学の修辞とすることである。一九三〇年代、建築界では建築における「日本的なもの」が論じられた。その議論に触発された小説家たちは、建築を媒介にしてそれぞれに思索を展開した。本書で取り上げるのは、そのような思考の痕跡の刻まれたテキストである。本書では、小説家たちが話題にする建築家や建築物、建築論を広義の比喩と見なし、その表現を同時代の文脈の中で読み解く。建築と小説という異なる領域の交錯する地点から、日本的なものという主題を捉えなおすこと、本書のねらいはそこにある。本書の独自性は、建築界の議論と小説家のテキストが交錯する範囲を画定し、そこに対象を再配置する点にある。
9784866241159
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