本書は、現在の政治学に見出せる「狭さ」を乗り越えることを目指している。ここでの狭さとは、大きく分けて二つの意味を持つ。第一に、政治学が限られた対象しか扱えていない、という対象面の狭さである。マクロで、フォーマルで、実体的な政治へと関心を集中させる現在の政治学は、ミクロで、インフォーマルで、非実体的な政治にあまり目を向けないため、その守備範囲は政治現象の一部にとどまる。簡単に言えば、国家やその統治機構と直結するわけでない社会内の多様な政治は、政治学の対象になりにくい。
第二に、政治学が用いる方法が特定のタイプのものに偏りがちになっている、という方法面の狭さである。既知の現象について、量的手法に基づき、因果の解明を目指す研究が盛んになった一方で、新しい現象を発見したり、現象の実態をつぶさに描き出したり、社会的な背景や文脈と結びつけて現象の理解を深めたりするような、(質的手法に基づくことの多い)研究は、どちらかと言えば減退傾向にある。このことは、やはり政治学が語れる政治の範囲を狭めるし、語り方の多様性を失わせかねない。
(「はじめに」より一部抜粋)
インフォーマルな政治の探究 政治学はどのような政治を語りうるか(1巻配信中)