古代ローマ帝国の皇帝ユリアヌスの短くも激動の生涯を描いた、辻邦生の代表的長篇作品『背教者ユリアヌス』を中心に、「背教者ユリアヌス歴史紀行」等関連エッセイ14篇を収録した一巻。
『背教者ユリアヌス』は、「海」1969年7月創刊号から1972年8月号まで、全38回にわたって連載され、同年に単行本として刊行された長篇小説で、4世紀から5世紀の過渡期、ビザンツ帝国の基礎を築いたコンスタンティヌス大帝の甥・ユリアヌスの短い治世と生涯、ローマ帝国の終焉、そしてキリスト教世界の台頭という歴史の転換点を描いた全14章からなる大作である。
緻密な構成と壮大なスケールをもって描かれたこの物語には、宗教に端を発する戦争や、国境・利害をめぐる紛争が絶えることのない未来を、すでに1969年の執筆開始時点で予感していた辻の警鐘が込められていて、辻は、「ユリアヌスが辿った悲劇を、自分の感覚として日々刻々に痛切に感じる」と述べ、時代の転換点に立たされた一人の人間への共感と、現代への問いかけとを重ね合わせていたのであった。
当巻では「ユリアヌスの廃墟から」等『背教者ユリアヌス』に関する辻のエッセイ文章14篇を収録している。
解説は中世から近世にかけての欧州を舞台とした歴史小説を多数発表している作家・佐藤賢一が担当。
付録として「背教者ユリアヌス」の創作メモ等を収録する。
※この作品はカラーが含まれます。