2009年、過去最大の赤字を計上し、株価が200円台に沈んだ日立製作所。その後、財務・事業改革と並行して人事制度をグローバル基準へと転換し、全社員のデータベースを構築。評価制度も海外方式を取り入れるなど「人への投資」に舵を切った結果、2025年には株価は20倍超の4500円台へと成長しました。同じく味の素も「働き方改革」と人的資本経営を推進し、株価を10倍に伸ばしています。
こうした企業変革の核心にあるのが「人的資本経営」――人をコストではなく資産と捉え、投資と活用を通じて企業価値を高める経営です。
本書は、17人の有力投資家と専門家へのインタビューをもとに、「企業はなぜ、どのように人に投資すべきか」を解き明かす一冊。投資家が人事・人材をどう見ているのか、どんな情報開示を求めているのかを、実例とともに紹介します。
従来、投資家は短期的な利益を追求する冷徹な存在と思われがちでした。しかし登場するのは年金や投資信託を運用する長期投資家ばかり。彼らは「人は価値の源泉」であり「企業の未来を決める最大の資産」と考えています。実際に株価や採用力を左右するのは、人材戦略とその実効性だと語ります。
2023年には有価証券報告書で人的資本の情報開示が義務化され、女性管理職比率や男女間賃金格差、育休取得率などが必須に。さらに2026年度からは人材戦略を経営戦略と結びつけて記述することが求められます。もはや人的資本経営は一部の先進企業の取り組みではなく、日本企業の生き残り戦略そのものです。