仕舞屋の灯のもとへ、また差配の太兵衛が次の仕舞いを持ってくる。亡くなった人の家に入り、故人が最後に渡したかった一つを見つけて、生きている側へ渡す。それが灯の得手だった。
目を病んだ鏡研ぎ・宗次が、娘に遺した一枚の和鏡。鏡面だけが磨きあげられている。お律は、母の死に目に渡り仕事で家にいなかった父の鏡など見たくもないと突き返す。だが灯は、他人からあずかった鏡は縁が曇るのに、この一面だけ隅々まで完璧なのは、四十年研ぎ慣れた我が家の鏡を手の記憶で研げたからだと悟る。ほとんど見えぬ目のかわりに、娘へおのれの顔を映させようとした鏡だった。
元酌婦・お栄の家には、三十年ぶん几帳面に取っておかれた男物の端切れと守り袋。金を出した人は「何も渡すな、名も出すな、ただ片せ」と言い残していた。灯は品の主が乾物問屋の利兵衛だと突きとめて訪ねるが、利兵衛は関わりを頑として認めず、みな焼けと突き放す。灯は、お栄がそれを誰かに渡すためではなく自分のために抱いていたのだと読み、渡すのをやめて、望みどおり品を土に還す。
独楽作り・茂平が孫の太一に遺した見事な独楽を、太一は川原へ投げ捨てる。爺はいつも「あとで教える」と言うだけで、作り方を教えぬまま逝った、と。仕事場を検めなおした灯が見つけたのは、子供の背丈に削られた低い作業台と、小さな手に合う道具と、荒く割った木地だった。仕上げた独楽ではなく、太一に自分の手で最初の独楽を削り出させる支度。太一のこしらえた不格好な独楽が、川原でひとりでに回りだす。
その回る独楽が、灯の胸の底の風車と重なる。灯は十四年ぶりに藍の包みをほどき、色あせて羽根の欠けた弟の風車を掌に見る。川へ流すことも渡しを渡ることもまだできぬまま、それでも暗い箱へは戻さず、板の間の目につく棚へ立てる。戸の隙間の風にひとつ羽根を震わせ、回りかけては止まる、その風車。
本作は「仕舞屋の灯」シリーズ第2巻(全4巻・完結)。