星合先生の王子様物だから甘い5ッ星にしようか迷ったが、若干捻り足りなく思えるストーリー展開をカバーしきれなかったので泣く泣く4つ星に。
彼が自分自身の幸福を考えたとき、相手はヒロインと息子しかいなかった。その自覚の過程の描写は良かった
。
王族に生まれた人間の務め、立ちはだかっていた王室典範、それでも意思を貫こうとする王子、前半の非道ぶりを挽回する勢いがある。
しかも、一生をかけて謝っていきたいと思う、との姿勢に、王政のコマでしかなかった彼の主体的な動きと、王族の一員との軛から心理的に離れて生まれる、僕にはこの女性しかいないとの想いとが、私の大好きパターンへ。つまり、彼女が民間人であるとかないとか、そんな事ではないのだと、彼女が何者であろうとも自分の考える唯一の結婚相手が彼女なんだと、ここをキッパリ公言する場面があって、私のHQ要求基準は満足なのだ。
ちょっと白っぽさが目につく頁もあるが、概ね外の景色は雰囲気を出していて、二人のシーンのキスシーンもきれい。
有名な大戦終戦時の欧州のキス写真の構図を彷彿とさせることを意図したかのよう。
王位継承権の物凄い順位の話にも王政という仕組みへのこだわりを感じさせて、このストーリーの背骨となっている。
この直前に橋本先生の「カラメールの恋人たち1 子爵の恋人たち」を読んだ。あちらはワイルドで奔放な王子だからこそ感情に素直に動く直情型、こちらは窮屈な中でそういうものなのだと、情は無用とばかりに定められたものを守ろうとしている人。比較対照すると、高い技量の両先生の得意な作風を生かしてるな、と感じる。星合先生の絵は男性は表情にバリエーション無く、寧ろじっと内面で考える、という語り口の静の絵で行くタイプだから。意図せず読み比べとなったが楽しめた。あちら4評価としたのでやはりこちらの4も仕方がない。
ヒロインは勤勉で賢く、自分の目の前の仕事に対して献身的に当たり、引継いだプロジェクトを期限に間に合わせてキッチリ仕上げた。贅沢を好んだりしないし何が大切なのかをわきまえている。しっかり子育てし、養育責任も愛情深く全うしてきている。自活力があり、女性としても魅力的。
結婚相手を探さなければならないというときに、探してもいいとされた中に含まれて居なかった、それだけだ。
彼が国王とヒロインに向けて語る言葉は、物語冒頭の不誠実を補って余りある。
もっとみる▼