このレビューはネタバレを含みます▼
舞台は80年代、軍事政権下のソウル。薬学科に首席合格したイ・ソンホは、父の抑圧と期待から激しい頭痛に苦しんでいた。ある日、公園で出会った着ぐるみ姿の青年シム・ドグォンに癒されていたところ、鎮痛剤の副作用で倒れてしまう。目覚めた先はドグォンの家。彼にキスをされると不思議と痛みが和らぐことに気づいたソンホは、頭痛がするたびに、ドグォンが働く映画館で逢瀬を重ねるように。そこは、抑圧され、隠れて暮らすゲイの居場所であり、交流の場だった。激動の時代、暴力と支配に抗いながら、利害の関係から始まった二人は、次第に心を通わせていく。しかし、断ち切れない過去、家という檻が二人の関係に暗い影を落とし始め…。痛みの中で出会い、寄り添い、愛を選んだ青年たちの青春ドラマ――。
時代背景にぴったりのレトロで瑞々しい画風や、立体感のある人物設定に、強く惹き込まれました。籠の中の鳥として育ったソンホと、社会の底に追いやられ必死に生きてきたドグォン。育った環境の違いからぶつかりながらも惹かれ合い、互いの存在を通して成長し、価値観も変化していきます。
悲恋になりやしないか、最終話までハラハラする展開に終盤は祈るような気持ちで読みました。ソンホが自らの選択、自らの足でドグォンを迎えに行く場面は、本当に美しかったです。新婦含め、最高の結婚式でした。
ドグォンが語った〈男を好きな理由〉にも、心を揺さぶられました。自分の存在に根拠を求めざるを得ない人にとって、それはどれほど救いになるか。
ドグォンを愛することで、人形ではなく一人の人間として自我を取り戻したソンホが、未来も愛も諦めようとしていたドグォンを解放していく物語には、確かな希望が灯っていました。
そして、ドグォンのまさに目から蜜が落ちるとはこのこと!な、ソンホへの眼差しの甘さたるや。
数え切れないほどのセッ久も、長身で筋肉質なドグォンと白うさぎのようなソンホという対比は見応えがありました。(準備ほぼなし+生ェ…ですが)
国家に青春を奪われる時代、導かれるように出会い、自らの意思で愛を選んだ二人。どうか、全ての人が、自分らしく生き、安心して愛を育める社会でありますように。そして、その平和が長く続きますように。
ちなみに、外伝は精力(文字通り)増し増しです。でもそれだけではなく、爽快感と多幸感のある結末に救われました。健康被害がなくて何より(笑)