「お前…咬まれて興奮しているのか?」
頬に添えられた冷たい手。首筋にひんやりとした唇が這っていく感覚に身がぞわりと粟立つ。鋭い牙は乙女の白い皮膚を柔く啄み、突き破っていく。
牙が食い込んでいるはずなのに痛みはなく、咬まれたと自覚した瞬間、感じるのは甘い疼きで…。
――さっき出会ったばかりなのに、この人に触れてほしくてたまらない。
《魅了》の魔力を持って生まれた令嬢リュシアは望まぬ力で異性を虜にしてしまうため何年も屋敷に引きこもって過ごしてきた。妹の結婚を機に家を出る決意をしたリュシアは人知れぬ森の奥に足を踏み入れるが夜盗に襲われ絶体絶命のピンチに陥ってしまう。そんな中、謎の男が颯爽と現れてリュシアを救う。
不思議な雰囲気を纏う彼は、自らを《吸血鬼》の末裔だというが……?
これは、魔法が廃れた時代に生まれたふたり、
【望まぬ力を持った家なき令嬢】と【ひとりぼっちの吸血鬼】が恋をする物語。