■「スケベのチャンスは逃すな」人格形成に影響を受けた
――ケンコバさんの「一生忘れられないトラウママンガ」は何ですか?
「僕はマンガはそうとう読んでるほうやと思うんですけど、そのなかでも『1・2の三四郎』(小林まこと)は、とにかく衝撃を受けて、今もバイブルになってますね。学園で女子たちから疎んじられてる粗暴でスケベな3人組が総合格闘部を作ってラグビー部や柔道部と戦って、いつしかプロレスラーを目指すというお話なんですけど、みんなに読まれたらバレるなと思うぐらい、人格形成にかなり影響を受けました(笑)」――どんなところで影響を受けましたか?
「いちばん大きいんが、とにかくスケベのチャンスは逃すなと(笑)三四郎たちはどんなに真剣に試合をしてても、どんなに追い込まれてるときでも、パンチラチャンスがあればそっちを見るんです。僕もいまだにそうやって生きてますから。僕、真っ黒いクルマに乗ってるので、何もしてないのによく職務質問を受けるんですけど、そういうときでも横を通った女の子を見たりしてます(笑)」――そこなんですね(笑)。特にお好きなエピソードは?
「このマンガにはほんま何でもない、何も起きない回があるんですけど、それがものすごく好きなんですよ。三四郎たちが高校を卒業して保育園で働きながらプロレスラーを目指す章があるんですけど、同じ保育園で保母さんをやってるヒロインのお志乃が朝「起きろー!」って言って三四郎の布団をめくって、パンツのふくらみを見て黙ってしまう。ただそれだけの1話とか(笑)。三四郎がバーベルの世界記録に挑戦して、苦しんで上げられずに終わるだけの回もありましたね。それも、大事な試合を控えて舌戦を経てめちゃめちゃ盛り上がって“いよいよ次週!”ってところにポーンと入ってくるんですよ。僕なんか単行本で読んだからいいけど、連載で読んでたやつなんか、“1週間待ってこれか!”って発狂したんちゃうかな(笑)」――「トラウマ」なのはどんなところですか?
「最終回で三四郎とお志乃がラブホテルに入るんです!少年マンガの主人公とヒロインが、ですよ。しかも目と目で会話してラブホテルに向かって走っていく(笑)これには子どもながらに“少年誌の主人公がこんな行動とってもええんかな”ってびっくりしました。11年後に始まった『1・2の三四郎2』では、第1話で結婚した二人が玄関でヤッてますから(笑)。でも小林先生がすごいと思うのは、全然ワイセツじゃないんですよ。スポーティというか。この人ほんとに心病んでないんやなと。」――確かに、エロいけど健全ですよね。
「『1・2の三四郎』はストーリーマンガですけどギャグがふんだんに盛り込まれてますよね。ギャグマンガってたまにものっすごい病んだ回があるじゃないですか。でも小林先生はそんなん全然描かへんなって思って。ムチムチの女を目で追っかけてしまう男を延々と描き続けてる。根っからのスケベやねんなって思って尊敬してます(笑)」■ほとんどの知識はマンガから得てました
――他にはどんな作品に強く影響を受けましたか?
「いっちばん繰り返し読んだんは『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)かもしれないですね。第2部が始まったのが中2のときなんですけど、ジョセフ・ジョースターは僕が初めて出会った自分と感性の近い主人公でした。それまでは超熱血であったりとか、超天才であったりとか、超ワルであったりとかで必ずしも共感できなかったんですけど、初めて俺と性格近いやつ出てきたぞって思って。なにしろ、嫌いな言葉の1位が“努力”で、2位が“ガンバル”。モットーは“相手をナメきった上で勝つ”で、俺とそっくりやなって思ってね(笑)。どんなに強いやつと戦っても、確かにナメきって勝つんですよ。力や技は相手のほうが圧倒的に上やのに、悪知恵だけで勝ったり。それが最高に面白かったです」――感化されたりしませんでしたか?
「だいぶされましたね。第1部に“ズームパンチ”っていう技が出てくるんです。呼吸法で息を整えて痛みを和らげながら、腕の関節を外してリーチを伸ばすという。当時空手をやってたんで、それを会得しようとしてかなり練習しました。だんだん突きが打てなくなってきて、医者に行ったら“何をしてんねん君! 見たことない炎症起きてるぞ”言われて(笑)、ドクターストップがかかりました」――ものすごくマンガに影響を受けた少年時代だったんですね。
「社会のシステムすらマンガから学びましたからね。そのとき病院に通ってなかったら、健康保険というものの偉大さも知りませんでしたし。“なんでこの看護婦さんを見たら心がぞわぞわしてくるんかな”とか、おじいちゃんが看護婦さんのお尻を触ってるのを見て“おじいちゃんになったら許されるんや”とか。勉学に関しては天才に近い扱いを受けてましたけど(笑)。とにかく歴史にしろ漢字にしろ、ほとんどの知識はマンガから得てましたしね」■予告を見てもまだ疑ってたんです
――最後に、どうしても外せないトラウマ作品があるとお聞きしたのですが?
「これはコミックシーモアでは扱ってないんですけど・・・。『大甲子園』(水島新司)。水島マンガの主人公たちが出版社の壁を越えて全部ひとつの大会に集まって、甲子園の優勝を競うんですけど、僕たまたま水島先生の高校野球マンガ網羅してて“ウソや!”って思って。商売敵の出版社が秋田書店に力を貸すはずがないと。“次週連載開始”って予告を見てもまだ疑ってたんです。“プロレスでも夢の対決がさんざん煽ってなくなったやん”と。でもほんまに連載が始まって、僕・・・信じられへん話ですけど・・・衝撃のあまりイッてしまったんですよ(笑)。1ページ1ページ、読みながらボッキしてた記憶がありますね」
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ケンドーコバヤシ |