社会の不条理、弱い者がいいようにあしらわれ利用され、不幸が不幸のまま放置される世の中の非情。人の死が軽い時代。貧困に差しのべられる手の少なさ。
無念の冤罪なんて判例も多かったろう。
生きていくのがどれ程大変だったことか。戦争の傷も民族差
別もあって、英国黒歴史を覗いた気にさせられてしまう。
誰も無傷ではいられない時代としても、読んでいて正義心を最もかき立てられるソフィの夫と子の件は、気が晴れない。世の中そうしたもんだ、と思うものの、不肖の弟をかばい自分の名誉を優先した、クライマックスの本丸エドバラ卿を攻めきれなかったチャールズに成り代わって、こっちがやるせない。他人の不幸によって自分の地位を守る人間は今だって居るけれども、その現状肯定を手伝うようで。そういう後味に仕立てている。メッセージ性はこもるが。
ロマンスの方はハーレクインお得意の契約結婚物。
時代設定と、提督をヒロインのお相手にしたことが、目先の変化を持たせるのみ。お姉さん二人、二人であることが後の話にバリエーション。ただ、一人でも良かったように思ったりはしたが。
表現が面白くていいと感じるところ、何ヵ所もある。
しかし数ヶ所、日本語の意味に戸惑う。訳がそれでいいのか、と確かめたくなる。一部例に挙げると、474頁「まだ少々雑に扱っても困るような服はない」は、私には「困らないような」なら理解出来る。548頁「死体を避け、云々」も、改行があり、文意が掴めない。623頁「謝りたいような気持ち」も、違う語が入って然るべき、と思ってしまう。787頁「ソフィは注意深く彼の左腕をつかむと、鉤が当たらないようにしながら肩にかけた」の一文に至っては、何を肩にかけたのか判らなかった。
漫画はそういう疑問を持たずに読めたのに、こちら原作の方は原文で読んでいないせいか、小さな突っかかり幾つかが、味わいを妨げた。
ノベルにはノベルの良さはある。それでも私はコミックの方が消化不良なく頁を手繰って行く事が出来た。
コミカライズは進行の手際がいい一方、ノベルは提督が酒浸りで臭くなる場面などでエンスト。やり直しの再会だって展開安易。
HQ漫画のレビューによく終盤の駆け足へ非難が集まっているが、このHQノベルは21章以降物語の力が落ちている。大体男性陣がブサメンズ。スターキーは言うに及ばず、エドモンズ卿、リーキーに至っては、気色悪いだけ。私は申し訳ないが3.5。
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