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濱森太郎は芭蕉研究者で三重大学教授である。大学出版会を立ち上げ、難病と闘いながら残された命を毎日刻印するようにして、晩年書き綴った未完の遺稿に纏わる物語を、妻・千春が珠玉の回顧録として語る。
森太郎の人生は、海賊とネズミの島、愛媛県日振島から広島県尾道、そしてドイツ・ミュンヘンを経て、芭蕉生誕の地である三重県へと、難病があるからこそ輝きを強めていく。
日本修士論文賞を自ら創設し大学出版会に新風を吹き込み、私生活では船舶免許をとってヨットで伊勢湾を航海した日々の描写はグラマラスで“ものすごく”ノスタルジックであるが、同時に“ありえないほど近い”千春の喪失と再生を感じさせる。