夜の帳が下りるころ、都市の仮面が剥がれる。
喧騒と欲望が渦巻く新宿・歌舞伎町。
路地裏に佇む小さな法律事務所に舞い込むのは、法にも倫理にも救われぬ事件ばかり。
依頼を受ける弁護士・山科信一は、情にも正義にも流されず、ただ論理の歪みだけを見抜く男だ。
本書『歌舞伎町路地裏法律事務所 山科信一の事件簿 完全犯罪の美学』は、五つの知的犯罪を描く連作短編集。
毒殺の連鎖、映像トリック、アリバイの罠、密室と海流、戦争の残響。
すべては完璧な構築物として提示されるが、山科の冷静な推理が静かに破綻を暴いてゆく。
驚きの結末よりも、読者の論理と直観が試される構造。
読むこと自体が“知の体験”となる。
そして気づくだろう。完全犯罪など、この世界には存在しないのだと。
この一冊は、推理小説を愛するすべての読者へ捧げる、知性と静謐の競演である。
ぜひ、ページを開いていただきたい。
完全にして破綻する美を、その目で見届けていただくために。