「私は、ただの『妻』という役割を演じるためのマネキン……」
朝6時40分、凍てつく始発駅のホーム。
広告代理店を経営する若林英雄と、大手企業の営業職として完璧な妻を演じる北村由美。
満員電車の喧騒と日常の摩耗に、ただ「個」を削り取られていく二人が出会ったとき、凍てついた孤独に一滴の熱が堕ちる。
厚手のコートの奥に秘められた、漆黒の情熱。
タイトスカートの境界線が崩れ、重なり合う肉体の拍動。
それは、出口のない地獄を生き抜くために選んだ、最も甘美で不実な「聖域」。
社会という歯車に軋む男と、夫の無関心に渇く女。
理性を司るすべての扉が音を立てて崩落し、二人は禁断の鉄路へと踏み出していく