隣国の羅門図師団が、国境線を自国の図の形に引き直しに来た。境を谷の底へ寄せれば、線の外に落ちる村がある——国境の村・音坂。団長ラドウは迷わない。「村が一つ退くのと、境が揉めて人が死ぬのと、どちらがましだ」。だが線の引き直しの裏で得をするのは、本国の国境方ソガだった。八年前、夜のうちに塩の関の界石を半里こちら側へ動かし、通し賃を私していた男。線が引き直されれば、動かした界石が「動かない界石」になる。
ソガはスイを「絵図騙り」と詰る。看板の板はもう八行で尽きている。それでもスイは頭を下げて、「よい名を、いただきました」。答えは、五年前に三つの町がレトア北外れの松の下へ運んで据え直した「三里の石」にあった。役人が打つ界石ではなく、両国の者が据え、両面に歩いて確かめた里を彫った石なら、次の役人にも動かせない。
尾根の頂きに二百六十人が集まり、二国の測り手が同じ石を一緒に測り、両面に里を彫る。歩測は誰の足でもできるから、ソガの妨害は効かない。ラドウは心ではなく利で、線より石のほうが崩れないと認めた。夜明け前、隣国の若い測り手トウリが、退去した家の納屋の板で二枚目の看板を立て、その一行目にスイの看板の一行目「泥塗り」を写す。スイは九行目を書かない。「伸ばすより、増えるほうが、遠くまで参る」。同じ一行目を上に載せた二枚の看板が、二つの国に一枚ずつ並んで立っている。
本作は「地図師スイ」シリーズ第7巻(全7巻・完結)。