七年前、薬礼を払えぬ病人を十分に診てやれず、亡くした。——薬師をやめたリンドウは、廃業寸前だった湯屋「小春の湯」を継いで五年になる。
焚き口の薪が湿って火が回らぬ日、猟師のヒカゲが猟から持ち帰った乾いた枝を分けてくれた。その枝で沸かした湯を、リンドウは一つ目の壺に満たして取っておく。薬草はまだ何も仕込めなかったが、それが薬湯壺を一つずつ増やしていく、始まりの一壺になった。下足棚が壊れれば手伝いのソラが打ち直し、薬草棚が切れれば洗濯女のおトネが野に自生する薬草の在処を教える。壺は一つ、また一つと棚に並んでいった。
薬種問屋の跡を通りかかった晩、リンドウは湯屋を継いだ本当の理由をヒカゲに初めて明かす。雪の下から皆で薬草の根を掘り出し、七つ目の壺がようやく揃う。
晩冬、ヒカゲが「来年も通う」と名を刻んだ木札を柱に掛ける。リンドウは並んだ薬湯壺を端から数えて、五年の湯屋の日々が、壺の数だけ積み上がっていたことに気づく。
本作は小春日和の「常連の札が掛かる店」シリーズ。一話完結・どこからでも。