正月、ヨネはタケとスゲを連れて南へ十八里を三日歩き、王都の孤児院の入院改めの日に着いた。門の内の敷石に二百二十人が並んでいる。書役が首に木の札を掛けていく。札は木で、表に番が彫ってあり、名は書いていない。百四十番のところで書役が手を止めた。──札は今年ぶんが切れました。番は百四十で止まります。
残った八十人は、握り飯一つと紙に包んだ麦の粉を渡されて門の外へ出された。門の向かいの堀端に石垣の窪みが四つあり、そこに莚が五枚敷いてある。
院主のジョウゲンは、数字を出さずに穏やかに諭す男である。私どもは選びます。選ばねばならないからです。──選ばぬから買うのだ、というのが、私があなたのなさりようをどう見ているかということです。ヨネは答えなかった。答えずに、十四年前に川端の莚から拾った十七のタケを広間へ連れて入った。
明け方、莚の端で六つか七つの子が死んでいた。門番は言った。帳にない子は引き取れん。並んだだけでは帳に載らん。
ヨネは石垣の窪みを直しにかかる。奥の石を二段外して平たい石を三枚敷き、崩れ石で囲って火を置く。米一升三十文、炭一俵五十文、板八枚四十文、鍋は継ぎの当たった古いのを三十文。手持ちは四貫百文。一日九十文あまりで、四十五日ぶんになる。
院では札の箱が落ちて壊れ、九年前まで使われていた紙の札が二百六十枚出てきた。紙の札には、名が書いてあった。捨ててください、と院主は言った。ヨネと書役のハツは井戸端の盥に灰汁を張り、二百六十枚を一枚ずつ沈めて字を流し、漉き返しの店へ置いてくる。
五年ぶりに会った隣村の若い衆が、油屋の奉公人になっていた。空の樽を口実に、この男は院へ通ってくる。
三月、莚の虫干しの六枚目の下から、紙縒りで綴じた束が出た。十二月二十八日から正月四日まで、日付ごとに、札を貰えなかった八十人の名が書いてある。
三月の末には堀の桜が開いた。開いた花が水の面に落ちて、風のある日にはそれが橋の下に溜まった。
なぜ札は百四十枚しかないのか。その数の出どころを、この年、ヨネは初めて知ることになる。
【子買い納屋 全十巻】一~四巻=里と村と宿場と郡/五~七巻=領と隣領と王都/八~十巻=公儀と国境と、その一語。本巻は第二部の三冊目、第二部の締めくくりです。