楽しく面白く、そしてスリル溢れ、目に疲れない程度のちょっとした犯罪摘発エピソード仕立てで、最後迄、舞台が宇宙・星であることを活かしきった、私に言わせれば大傑作である。のびのびマイペースが多い川原先生作品の中で、一番興奮を誘う部類に思う。
恋愛物ではない。2306年、就航する星間大型輸送船「ブレーメンII」にスカイ・アイ社創立以来最年少で昇進したばかりの船長キラ・ナルセが乗組員86名+αで、複数の貨物輸送の目的地を転々と進みながら、事件などに巻き込まれたりで繰り広げられる大スペクタクル。何が起こるか予想もつかない宇宙空間航行中、動物達の存在が重要な物語構造。動物っぽい同僚の宇宙物は映画「スターウォーズ」しか思い当たらない。
船長以外の乗組員は殆ど動物達、「ブレーメン」に名を戴いているようにブレーメン音楽隊の話に続けというのか、 II が付されているのである。止められなかった少子化による人手不足の未来は、動物達が補う。その彼らの立場や人間との関係もあるがそればかりではない。危険薬物製造密売犯罪、大量殺人犯、AIの有りようなどが扱われながら、川原先生流の笑いを取る場面もかなりあって、とにかく全4巻あっという間だった。4巻丸ごと表題作。平成10年(1998)PUTAO8月号から平成16年(2004)メロディ5月号にかけての連載で発表されているが、ここ数年急速に耳馴染みが出来た「CDC(疾病対策センター)」も、作中20世紀創設以来300年以上存続していることになっている。
火星人やチネチッタ星人達が可笑しい。
宇宙に大鳥居が浮かぶシーンの祝詞場面は不思議な荘厳さである。最近、萩尾望都先生作品「海のアリア」の中で、水と共に描かれた鳥居の存在感に霊的感性を抱いてしまって驚かされたが、川原先生の絵にも、そこの場面では登場動物達の共感は得られないものの、人間の縋る想いが、血脈レベルで未来の人類にも息づいていることを思わせて、変な説得力がある。科学の発達と宗教の併存を絵で示してくるのである。
兎に角、壮大で、まるで本当にこんな世界もあるかもしれないと思ってしまいそうだけれど、やはり大胆に荒唐無稽で、宇宙船操縦がメカニック面で本格的に見え、裏に抱えるテーマが仄かに深遠で、と、これも川原先生作品なの?、と度肝を抜かれながら、読めば、絶対川原先生の作品世界だと随所で確信させられるのだ。
一昨日桜島噴火で警戒レベル5、安全を祈願。
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