■いつか映画化したい『アドルフに告ぐ』
――佐藤監督は『GANTZ』や『砂時計』などマンガの実写映画化を多く手がけていらっしゃいます。
『図書館戦争』シリーズも原作は小説ですが、マンガにもなっていますね。佐藤監督の“絶対読むべきマンガ”は何ですか?
――どういったあたりがお気に召しましたか?
「ヒトラーが実はユダヤ人の血を引いているという機密文書をめぐって、ドイツ人とユダヤ人の二人のアドルフが運命に翻弄されていく、戦前から戦後まで何十年もの時間軸で描かれた物語ですよね。ゾルゲや尾崎秀実といったスパイが出てきたり、ベルリン・オリンピックや第2次世界大戦、日独の敗戦、イスラエルの建国などの史実に登場人物が絡んで、最後の最後にタイトルが腑に落ちるという構成がすごくいい…と、当時も思ったし今も思いますね。ヨーロッパと日本をまたにかけた話だし、長い話でもあるので大変だろうなとは思うんですけど。もしすごくお金があったら映画にしてみたいです。そういった意味で、是非読んでいただきたいですね!」――佐藤監督作品として実写映画化。ぜひ拝見したいです!
「あははは。僕は小説でも、リアルな歴史を描いた本格派なものより、その隙間を縫ってフィクションを描いたものが好きなんですけど、『アドルフに告ぐ』にもそういう匂いがあるんですよね。 僕は、普通の青春を送っていた友達同士が、戦争が始まって“俺は東に行くことになった”“そうか、俺は西だ。戦争が終わったらまた会おう。じゃあな!” みたいに別れ別れになるのが、たまらなく好きなんですね。■「そのまま映像化」では済まない、実写映画化の難しさ
――『図書館戦争 THE LAST MISSION』では、
まさに日常のなかの戦争、戦争のなかの日常を描いていらっしゃいますよね。
――マンガの映画化で難しいのはどんなことですか?
――どこかで原作から飛び立つことが必要なんですね。
「僕の理想は、あたかも映画で見たシーンが原作にもあったような気がする、でも原作を見てみたら全然違う、というものなんです。マンガは2年前に完結しましたけど、結末までの展開を知っていたら映画はああはならなかったかもしれないと思いますね。最終巻を読み終えたらやっぱり宇宙を見たくなるし(笑)。当時はまだ、ジャーナリストの菊地がドイツに行ってガンツ工場を見て…というクライマックスに至る展開の少し前で、 映画独自の結末をつけていいという話で始まったんですけど、ガンツバイクを使ったシーンや空中戦など、泣く泣くやめたシーンもいくつもありました。あれもこれも盛り込むとしっちゃかめっちゃかになるので、選択と集中が大事なんですが、省いていく作業がとにかく苦しいんです。ガンツは何なのかということも、奥先生の頭の中にあって全部は言えないということだったので、脚本家と一緒に、映画としてはこういう展開が面白いんじゃないかな、と作っていって、原作から逸脱しそうになると読み直して少し戻して。エンディングもそうやって先読みして作ったんですよ。だから映画ができた後のマンガの展開で似たようなカットを見つけると、ちょっとうれしくなったりしました(笑)」■『砂時計』の文学っぽさ、『アイアムアヒーロー』のひねり
――そう考えると『GANTZ』は特殊なケースですか?
「特殊なんじゃないですかね。僕が最初に映画化を手がけたマンガは『砂時計』(芦原妃名子)ですけど、あれは全10巻で完結していたんですよ。あの作品は主人公の杏(あん)が少女から大人になるまでの話で、島根と東京を舞台にさまざまなことが起こりますよね。そのなかで大悟を思い続けた杏が最後にある選択をするわけですが、連載マンガならではの波瀾万丈の物語を2時間にするのが難しかったですね。換骨奪胎しないといけない瞬間がどうしても来るんですよ。日常をベースにした作品ですけど、原作のイメージよりは自分のイメージ、少女マンガよりは映画の気分にちょっと寄ったかなって感じがします。人の生と死が描かれているし、ときどきあるズシーンと重い雰囲気に僕は文学っぽさを感じて、これを映画の空気感で表したいなって思ったんです」――公開は来年ですが、『アイアムアヒーロー』の映画化も手がけられましたよね。
「『アイアムアヒーロー』(花沢健吾)は原作の花沢先生も映画好きな方で、特にゾンビ映画がすごくお好きなんです。最初に“変えてくれてもいいけど、僕が大好きなゾンビ映画にしてほしい”って言われたんですよ。それがいちばん大変じゃないですか(笑)。“このまま映画にしてくれ”って言われたほうがある意味楽ですよね。 ゾンビ映画って大まじめに作ろうとすると恥ずかしいものになりがちだから、笑える方向に行く作品が多いんですけど、我々は大まじめにやる、
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佐藤信介 |