一穂先生の作品の初見はBL小説『イエスかノーか半分か』です。初めて読んだ時「なんて文章力が高くて描写力のある人なんだろう」と思いましたが、一般文芸においてもそれは健在で、本作はより文学的で哲学的な印象を受けました。冒頭から少し読んだだけでも
、主人公の生き方が匂い立ってきて、周囲に情景が創り出されていくような言葉の魔法にかけられます。直接的、間接的に伝える表現の引き出しを何種類も持っているところも凄い。会話のやり取りが特に面白くて、容赦がなく的確なツッコミにクスリと思わず笑ってしまいます。私のおススメは『魔王の帰還』と『愛を適量』。「こんな人いたらいいな」「こんな人いるよね」とうなずきながら、時々涙しながら読みました。すべての作品が良かったわけではなく、例えば『ネオンテトラ』は私自身不妊治療を経験している身ではありましたが、共感できるところはなく不快感が残りました。『花うた』もラストが印象的で綺麗にまとまっていますが、感情移入がしづらかったです。ただ、全体的には完成度の高い作品が多かったのではないかと思います。
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