淳子さん――。
僕があなたを失って14年が経った。
あの日、あなたに言われて約束したよね。
「無理心中なんて嫌だからね。後追い自殺もダメ」。
僕はまだ、生きている。あなたを失った時間を――。
2010年1月26日。
振り返ると青山アンデルセンの小さな袋を手にした淳子さんは、
そのまま僕の前を横切り、左横に座りながら、
それはあまりに突然の言葉だった。
「膵臓がんだって。
もう一度正確な検査しないとハッキリしないけど、
まず間違いないって。レントゲン見たけど、
肝臓にも3か所転移があって、結構大きい。
ステージⅣのbだから、手術するのも無理。
助からないみたい」
『バーテンダー』など数々のヒット作を生み出した
漫画原作家の城アラキは、最愛の妻から突然の余命宣告を受ける。
混乱して子供のように泣き出す夫と、どこまでも冷静な妻。
「ふたりだけのことだから、最後までふたりだけで生きたい」
妻の願いにより、残された数か月をほぼふたりきりで過ごす夫婦。
共に過ごした30年間の、更に濃密な3か月間。
愛して、愛して、愛した妻の、最期の言葉――。
「淳子さんの心の本当の奥底にあった孤独感は、
やはり僕には分からなかった」
妻を失って壊れた心は、簡単には戻らない。
もう戻ることはないのかもしれない。
それでも、美しくて、強くて、聡明だった淳子さんを残したい。
同じように誰かを失くした、誰かのために。
城アラキが2年以上の歳月をかけ、悩み、迷いながら綴った、
妻への愛と後悔のエッセイ。
喪失の対象はさまざまだろう。
時に妻であり夫であり、子供であり、両親であり、
祖父母であり、恋人や友人のこともあるはずだ。
ただ、唯一無二のかけがえのない「その人」。
世界のすべてと交換しても、
もう一度会いたい、もう一度取り戻したい。
そう思える誰か。
そんな誰かを失ったあなたに、読んでほしい。
あなたのためだけに本書を書き始めたい。
城アラキ