倒産間際の企業が椅子の魅力で再生するまで。
カリフォルニア州クパチーノ市アップル・パーク通り1番地。
そこに71ヘクタールもの広大なApple本社「Apple Park」が広がっている。
iMac、MacBook、iPod、iPhoneを生み出した
伝説のデザイナー、ジョナサン・アイブのこだわりが随所に感じられるその空間で、
日本製の椅子が数千脚も使われている。それが「HIROSHIMA」だ。
ジョナサン・アイブも尊敬する日本を代表する
デザイナー、深澤直人が生み出した優美な曲線で構成され、
木目も美しい椅子は、2023年の広島サミットでも、
テーブルとともに首脳会談で使われた。
この日本を代表する椅子を製造しているのが、
広島の家具メーカー「マルニ木工」である。
じつは「HIROSHIMA」が誕生したとき、同社は倒産寸前だった。
かつて日本人の生活が洋風化していく波に乗り、
100万セット以上も高級なリビングセット、ダイニングセットを売りまくったが、
バブル崩壊以降の日本経済の低迷、そして消費者の嗜好の変化も相まって、
90年代の後半、経営危機に陥ってしまう。
綱渡りの資金繰り、工場の縮小、そして1928年の創業以来初となる社員のリストラ……
地元広島の企業や金融機関の支援でかろうじて命脈をつなぐなか、
創業家である山中一族の三代目は、
深澤直人と組んで世界に打って出る決断を下す。
そんな起死回生のプロジェクトを支えたのは、
これまで培ってきた、ものづくりの力だった。
追いつめられていた企業を救った「奇跡の椅子」。
それにこめられた熱い思いと、誕生の物語。