交通事故で救急病院に運ばれた時の葵は、24時間が山だと言われた。それを葵は超えたのだ。
脳死状態の葵に低体温治療を続けて六日目が来た。そして今を生き抜いている。
この子は運の強い子なのだ。母親のリリーにはそう思えて仕方がなかった。
運ばれた病院が、設備の整った救急病院だったこと。そのおかげで、最先端のあらゆる治療を受けることができている。
意識こそまだ戻らないけど、葵は生きている。リリーのそばで、よく眠っている。
動かないけれど、温かい葵の体がここにある。
葵が事故の時に着ていた、血に染まったシャツもズボンも下着も、靴下までがそこにはあった。読みかけの本もある。挟んであるしおりにまで血はこびり付いている。
リリーはその血を舐めた。耐え切れない時にリリーはしおりを舐めていたらしい。
舐めた後、しおりを確かめた。