その先で、二人は何も言わなかった。
雨の夜に越えた一線を、なかったことのように、二人はまた同じ部屋で暮らしはじめる。何も訊かない女と、何も言わない男。沈黙だけが、唯一の約束だった。
近づけば壊れる。離れれば、もう戻れない。苗靖は、外の世界へ手を伸ばす。陳異が何を抱えて生きてきたのか、それを確かめるために--知ってしまえば、断ち切れると思っていた。
荒れた街で、二人はどんなふうに生き延びてきたのか。欠けた月の下、寄り添うことも離れることもできなかった二匹の野良犬。その記憶だけが、まだ消えない。
陳異は、遠い先のことを口にしない。ただ一人、胸の中で描いている--いつか必ず、この手で迎えに行く、と。
誰にも必要とされなかった二人の、語られないままの約束。
※本作は月城 螢の個人誌作品の電子書籍版となります。