「どこに行くの?」「もうすぐ着くよ」彼が私を連れ込んだのは、入江の奥にある黒っぽい壁のように立ちはだかっている大きな岩のその裏側だった。「怖くないの?」「大丈夫だよ」彼は私を振り返って微笑んだ……美しい思い出が心の中に甦り、胸がいっぱいになる。ひとりごとのように話してもいいのだけれど、誰かに聞いてもらいたかった。だから、AIをオンにしていた。ゴーグルの視野いっぱいに、夜の静かな海が現れる……目を閉じ、私は今夜も遠いあの日の快感を辿る。彼の指は胸から下腹部へと移り、私はそれを迎え入れるために、ゆっくりと脚を開く。そして腰を少し浮かせて、指が私のいちばんいいところに当たるようにする──あの日、海辺の岩場の陰のボートの中で、月明かりの下で、私の体は真っ白に輝いていた。何歳になっても忘れられない、いちばん気持ちよかったあの日をリピートする幻想物語──『艶想』第2号掲載短編!!
【著者略歴】
内藤みか(ないとうみか) ─ 1971年、山梨県生まれ。二十二歳でデビュー。若妻ものや、失恋ものなどで人気を博す。近年は「ケータイ小説の女王」と呼ばれることにとどまらず、イケメン評論家としても活躍中。イケメンを主にした舞台、コミック原案など活躍の場は広がっている。