滑落して足を折った測量士ですが、雪尺を毎日読んでいたら、避難小屋の管理人が毎朝五十分かけて裏の道を作り直してくださいます(芳賀まほろ )の注意事項

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ライトノベル
滑落して足を折った測量士ですが、雪尺を毎日読んでいたら、避難小屋の管理人が毎朝五十分かけて裏の道を作り直してくださいます
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滑落して足を折った測量士ですが、雪尺を毎日読んでいたら、避難小屋の管理人が毎朝五十分かけて裏の道を作り直してくださいます NEW

830pt/913円(税込)

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作品内容

【この作品は生成AIを使用しています】

千八百四十二メートルの尾根である。三角点の標石を掘り出すのに、柄澤匠は半日を使った。二十九、測量の七年目。掘っていると指がすぐに利かなくなるので、二十回掻くごとに懐へ入れて温める。二十回で温める、と決めたのは思いつきの割り方である。それでも決めておけば途中で迷わずに済む。迷わずに済むやり方を一つ持っておくのが、七年やってきていちばん効いた。
十一月三日、十時四十分。標石の周りの雪の深さを四つの方角で測って、北二十二、東十九、南十四、西二十と並べて書く。雪解けに官の測量隊が上がるまでの冬の積雪を、一日も抜かずに測る。そのために上がってきた。
下りの途中、薄く雪の乗った一枚岩の肩で、右足が抜けた。雪の下は夜のうちに凍った氷だった。三メートル半落ちた先に岩の割れ目があって、右の足首から先がそこへ入り、体だけが回った。
猪俣静馬、四十四。この避難小屋に十八年いる。短い命令形しか使わず、質問文を一度も使わない。相手に向けずに手順を声に出す独り言が多く、その独り言が結果として指示になっている。測らないのに知っている人だった。一月にそこは風が舐める。二月は氷になる。地面が出る年もある。
初雪で下山路が塞がった。雪解けまで、この小屋で冬を越すしかない。
四メートルの竹を三本に切って、継ぎ手を二つ入れた雪尺。十センチごとに焼き付けた黒と白の帯。樺の割り板四枚でこしらえた副木。裏戸から雪尺までの十八歩。
やがて柄澤は、裏の道が毎朝作り直されていることに気づく。毎朝五十分。五十分を百四十日続けると七千分になる。七千分は百十六時間で、四日と二十時間ぶん、この人はそれだけのために外にいることになる。
大雪で戸が開かなくなり、内側から掘って出るまでに三日かかる。三日ぶんの測定が抜ける。
薪は九月と十月で作る。伐って、その場で長さを揃えて割り、割ったものを背負って十日かけて運び上げ、南向きに積んで十月いっぱい風に当てる。組み終えて、この人の秋が終わる。その束を、十二月十六日に数え直す。二人ぶんの暖を取る量は、はじめの見込みと合わない。
十一年前の、十二月二十九日。この人が下るなと言って、それでも発った人がいた。
抜けた三日を埋めるために、小屋の裏へ雪の断面の壕が掘られる。層は積まれた順に下から重なっていて、上から順にしか出てこない。出したところを崩せば、そこにあった順序は世界のどこにも残らない。
冬の帳の表には年と山の名が書かれ、中には数が並ぶ。誰が毎朝七時に十八歩あるいたのかは、どこにも残らない。BL時代小説・全10章完結。

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  • 滑落して足を折った測量士ですが、雪尺を毎日読んでいたら、避難小屋の管理人が毎朝五十分かけて裏の道を作り直してくださいます

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    千八百四十二メートルの尾根である。三角点の標石を掘り出すのに、柄澤匠は半日を使った。二十九、測量の七年目。掘っていると指がすぐに利かなくなるので、二十回掻くごとに懐へ入れて温める。二十回で温める、と決めたのは思いつきの割り方である。それでも決めておけば途中で迷わずに済む。迷わずに済むやり方を一つ持っておくのが、七年やってきていちばん効いた。
    十一月三日、十時四十分。標石の周りの雪の深さを四つの方角で測って、北二十二、東十九、南十四、西二十と並べて書く。雪解けに官の測量隊が上がるまでの冬の積雪を、一日も抜かずに測る。そのために上がってきた。
    下りの途中、薄く雪の乗った一枚岩の肩で、右足が抜けた。雪の下は夜のうちに凍った氷だった。三メートル半落ちた先に岩の割れ目があって、右の足首から先がそこへ入り、体だけが回った。
    猪俣静馬、四十四。この避難小屋に十八年いる。短い命令形しか使わず、質問文を一度も使わない。相手に向けずに手順を声に出す独り言が多く、その独り言が結果として指示になっている。測らないのに知っている人だった。一月にそこは風が舐める。二月は氷になる。地面が出る年もある。
    初雪で下山路が塞がった。雪解けまで、この小屋で冬を越すしかない。
    四メートルの竹を三本に切って、継ぎ手を二つ入れた雪尺。十センチごとに焼き付けた黒と白の帯。樺の割り板四枚でこしらえた副木。裏戸から雪尺までの十八歩。
    やがて柄澤は、裏の道が毎朝作り直されていることに気づく。毎朝五十分。五十分を百四十日続けると七千分になる。七千分は百十六時間で、四日と二十時間ぶん、この人はそれだけのために外にいることになる。
    大雪で戸が開かなくなり、内側から掘って出るまでに三日かかる。三日ぶんの測定が抜ける。
    薪は九月と十月で作る。伐って、その場で長さを揃えて割り、割ったものを背負って十日かけて運び上げ、南向きに積んで十月いっぱい風に当てる。組み終えて、この人の秋が終わる。その束を、十二月十六日に数え直す。二人ぶんの暖を取る量は、はじめの見込みと合わない。
    十一年前の、十二月二十九日。この人が下るなと言って、それでも発った人がいた。
    抜けた三日を埋めるために、小屋の裏へ雪の断面の壕が掘られる。層は積まれた順に下から重なっていて、上から順にしか出てこない。出したところを崩せば、そこにあった順序は世界のどこにも残らない。
    冬の帳の表には年と山の名が書かれ、中には数が並ぶ。誰が毎朝七時に十八歩あるいたのかは、どこにも残らない。BL時代小説・全10章完結。

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