妙なことだが本当に実在しているかの圧倒的リアリティがあって、居ないのに登場人物たちをこの世の中に探したくなってくるマジックを見せつけられた思い。中身がすごすぎる。話の熟成度が高く、その虚構世界のドラマに一体どれだけの隠れメッセージが籠ってい
るのか、その重層構造に恐れ入ってしまいそうだが、否そんなこと考えずとも、純粋にたっぷり楽しんだ。
「なにを諦めるか」じゃない、「どう諦めないか」を考える、という言葉もこの話だからこそ生きる言葉であって、しかも、それは普遍的な励ましにも受け取れる。
目の離せない展開で夢中で読んでしまった。うっすら知識として持っている宝塚関連の、あたかもパラレルワールドでもあり、そして、厳しい社会だという、かの付属の音楽学校を彷彿とさせる描写を通じて、その空気や内実までも見せてくれたかのよう。東宝で繋がる歌舞伎界との因縁めいたストーリーの構造のほうもピリッと中身を締めている。知らない世界のことなのに読み手としてその世界にどんどん入り込んだ気になって、彼らの学校での日々とその後の生き方に触れ、好きな道を見つけてそこに入ることを許された人間の、ある時期に集約的にしか色濃く経験出来ない汗と苦悩と夢とが、読んでいる自分の目の前に迫って来たのだ。
集団の美、というところ、彼らの学校生活での過酷な修練とがダブり、厳しさの存在理由、裏打ち(正当化、も含まれるかな)の説得材料になって、明日からそういう目で群舞を見るようになるだろうな、との予感。
気持ちがもとより女の子であって娘役をやるのと、男の子であって舞台で女の子を演るのと、いろいろ考えさせられるし、歌舞伎の女形観にも通ずる感じ。
絵は単純なほうで、随分すっきりしすぎ、魅入られる華麗なラインは無い。このあっさりさは、物足りなさにも通じる絵で、そこは少女漫画好きな私には多少違和感も。しかし、きらびやかさ、あでやかさ、妖しさ、なまめかしさ、など無縁な画風であるのに、ストーリーに強い力があるために、読後の満足感がすこぶる高い。
連載時期と、編集サイドの都合による作品のサイズなど、あったであろう制約を想像するに胸が痛い。
山岸凉子先生の「アラベスク」第2部卒業公演を思い出してしまった。(内容は異なる。)
レニングラードバレエ学校とキーロフ劇場との関係も連想して味わった。
★は最低でも6個以上から考えて付けたい気持ち。
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