戦乱の世がはじまろうとする頃、山あいの小さな領地・道明沢。
道明沢を治める道明家に小姓として出仕した秋津伊縁は、かつて自分を励ましてくれた若君・道明秀将の変わり果てた姿に打ちのめされていた。
かつては穏やかで優しい方だったのに、今の秀将は冷たく、粗暴な物言いで人を遠ざける。
けれど伊縁は、彼の中にまだあの日の温もりが残っていると信じ、ひたむきにつとめに励む。
やがて秀将の胸に隠された悲しみを知った伊縁は、ますます彼を想わずにいられなくなる。
そして、互いに傷つきながらも少しずつ通じ合う心。
その温かな日々の中で、伊縁は気づく──自分が求めていた居場所とは、秀将の傍らそのものだったのだと。
しかし、伊縁を昔から目を掛けていた蓮司正興が、ふたりの関係に暗い影を落とす。嫉妬と野心が交錯する中、とうとう道明沢でも戦の火蓋が切って落とされた。
避けては通れない争いを前に、二人の間には強い絆が結ばれる。道明沢のために、互いのために、命を懸けて二人は戦う。
戦国の世に咲いた、誠と恋の物語。互いを信じる心が、夜明けの光となって二人を照らす。