「蟲」とは、「おに」「もの」よりも有機的。自然の中に音もなく存在する生命。拙い言葉でイメージが伝えられるでしょうか。
現在でも未来でもない、過去でもない。時がないまぜとなった集落を巡る主人公。彼は、「蟲」に関わって苦を背負った人々を助け、
時には苦を受け入れる示唆を与えます。
緑深い山、山を下る川、川を注がす海。深い谷、谷にかかる霧、霧を透かせばまた山々。湿潤で地勢の変化に富む日本の国土と、自然と共生する人の有り様とが、「蟲」のリアリティをしっかり支えています。
臓器移植、器官移植、延命医療、代理出産、人が受容すべき生死の垣根が壊れた現代日本では、表現することは不可能でしょう。そして作者は設定したその舞台で、主人公にあえて現代語を使わせます。(例「あなたに過失はない。」)小さなことですが、そうしたセンスが本作を稀な佳作に押し上げているように思います。
人物描写は細かですが、難解なところはなく、若年層の方にも読みやすい作品でしょう。
『もののけ姫』の世界観も嫌いじゃないけど柳田国男も好き。
『百鬼夜行抄』にちょっとハマってる。
そんな方は是非お試しください。
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