三部作で三兄弟それぞれの結婚話。こうした趣向のHQは、遺言だったり脅しだったり、身内からの何らかの働きかけから始まることが多い。手頃な企画として、兄弟を括るための方便が、ここは「呪い」。米国プロ野球でも、呪い、というのがあるが、どうも英語圏
は日本人とやや異なるニュアンスらしい。もっとも、このガヴァネスの場合ほぼ同義かな。
ガヴァネスの話が入れ子構造となっていて多分にHQ的なのだが、悲劇となっている。
この三兄弟一族が「王族」並みの存在という設定。長男アレックスの立ち位置、役割等から形成されている彼のキャラが、本作における彼の言動を自他共に期待される様に振る舞わせる。よりやんちゃな弟達よりも、羽目を外せなくて、自分のエゴを退けて、感情を制御可能に。長としての責任感の鎧を、無意識に身につけてしまっていた。
ストーリーに複雑なものがない所為かどうかわからないが、大きめコマで、一つ一つに意味に深さを持たせなくても進んでしまえる、どうもザックリ大作りの作品。だが、こと「ネックレスー心の真実」はビジュアルが素敵。
小林先生の絵がさらりとして、ヒロインが一人相撲を自覚しながらも、そこまで強くクヨクヨうじうじせずエイッと判断して行動する潔さを映し出す。
相手が悪い、自分は被害者、というありがちなドツボに「可哀想なヒロイン像」を配置していないのが、読後感を良くも悪くも軽くしている。
「(おとぎ話のような物語にうっとりして)アレックス自身をちゃんと見ていた? 私こそ本当に彼を愛してるの?」
この自問自答が効いている。ちゃんと第六感が、彼は自分を何年も放置していた、秘書が迎えに来たことに対して、他の兄弟がごもっとも。愛を乞う心情を胸に納めながらも、冷静な自分が彼を突き放す。そこにヒステリックな反応というのはなく、過剰な怒りなど噴き出すこともない。
彼に秘書のことも言いたいことは言っているし、直接秘書にも態度を明らかにしている。成人女性であるヒロインが母親に訣別をきっぱり宣言するも、「国は捨てない」など、自分の意思表示が主体的なのがいい。あっさりストーリーの割に、然るべき言動によって腹を括ったと言おうか、方向性が確かと言うべきか。
自分を見せることで傷つけられることを彼は怖れたのだという。
長男編は前菜よろしく相対的にこってり度は少。
愛、名誉、真実を表す西語の紋章が格好いい。
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