絵に甘さや可愛らしさはない。大人の男女が人妻と人気キャスターとして、出会う。そこがいい。彼は「不倫」に陥ることを恐れながらも愛してしまい、彼女は自分をさらけ出せない苦しさと戦い、少ない機会に素の自分(彼には判って貰いたいけれど、判って貰えな
いとの覚悟も抱きつつ)で愛する。
この種のストーリーの常として、ヒロインの嘘が最悪のタイミングで知られてしまう。
この話の私の評価ポイント(?-TVの俳句評ではないがー)は、彼の心の整理の場面。
HQの中には、男性の家庭環境に現在の女性観に通じる出来事があり、それをヒロインが癒す、または、覆す、というくだりがある作品が多いが、結構ヒロインの存在、愛、行動が、彼の壁を壊すことが多い。
このストーリーは、彼が自身で乗り越える。その過程を漫画で表現出来ている。
好みとしては、もっと絵に説明力があっても良かったかとは思うが、他のHQでは充分触れないで瞬間的に気付きや変化が起きてしまっているところを、しっかりと自分の結論迄内省的に導いている、という点で珍しい。
彼の家族問題の方が要素として高まるクライマックスで頁はそちらに割かれたのに、ヒロインの姉の、ヒロインを振り回してきた手前勝手で傲慢な言動に対して、地盤確立後に鼻を空かすエピソード挿入は小気味良い。
余り漫画を読まない層が手に取る漫画では、線のシンプルさが説明力になるかもしれないが、HQは華も美しさも欲しく、贅沢な生活、ゴージャスな雰囲気がここはパンチ不足。人物は見目麗しさでもう少し酔いたい。かつて少女漫画を嘲る形容詞だった花と瞳の星(「星形」ではなく黒目の中の虹彩の描写)は、私はずっと変わらず好物なので。
ストーリーで読ませるのであればノベルがある。
HQでは時々、登場人物のキャラ上のブラックな体質が批判されている作品がある。過去の出来事や体験では帳消しとしない読者がいるという現実は、投げつけられた方は一生忘れないひどすぎる言動、という点もさることながら、男性の反省や謝罪場面おざなりというキライが。
これはそんな描かれなかったバックステージをドラマにしたような性格があって、彼にもドラマはあるのだ、という趣向も少し感じる。
といって、HQは女性読者に読ませるから、ヒロインを通してロマンスのときめきが要る。本作はたっぷり取っている。
それでいて、詰め込みも、間延びもないのだから、読みごたえはある。
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