素晴らしかった。外の景色も、室内も、よく描き込まれて、繊細な筋運びと細やかさが同調する。二人を中心に据えてじわり進行する上滑りしない心の風景。周囲の人物たちも出番が少ない割にものすごい存在感を放つ。苦しんでいる二人が互いに打ち明けて、そして
、慰め合うように親しくなっていくところ、二人がそれぞれ引きずってきた痛みが和らいでいく様子に、その穏やかなひとときの幸せを感じる。静かにたたえてきた緊張が冬の柔らかい日差しを受け始めたかのよう。
背景の丁寧な描き込みだけでなく、男性視点のモノローグが素晴らしい。人物の内面描写をタップリ補強する、これまた印象的な言葉が並んでる。
選ばれた表現が、そこにある空気を敏感に掬い取って物語の進行に深みを与える。もちろんナビゲーターとして巧みである上に。
こういう内容は、噛みごたえのあるメニューがいいと思うときに魅力が発揮される。その滋味を味わうと、自分まで幅が広がった気になってくる。
二人の人間が、出会う前に既にそれぞれ歩んできたところがあり、何らかの偶然(必然でもあるのだろう)があって二人の人生が交錯する。この話はその交錯の理由が、両者にとって共に切実で、過去や現在の自分に対するの肯定でもあったりと、なかなか誰もに傷を残さない決着は難しいであろうデリケートかつシリアスな問題。
そこに化学反応の発生があり、積み重ねる時間の中で、相手を求めている自分の感情を知る。
出会うまでと出会った後との違いをわざわざ説明しなくても、終盤で男性が語る通りに、もう知らなかった頃には戻れないのだ。
この作品を制作するのは相当心血が要ったのだろうと思わせる丁寧な仕上がりに、なんだかいい仕事した価値あるものを見つけ出した気分一杯だ。
中身に反してタイトルが安っぽさを感じる。重くしたくない意向は判るが、原題には男性視点の可能性も感じさせるだけに、もう少しノンジェンダーで付けられなかったものかと思う。
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