第二王子に「完璧すぎる」と切り捨てられ、婚約を破棄された辺境伯令嬢リーゼロッテ。前世は他人の数字ばかり合わせて過労で死んだ経理係だった彼女は、この理不尽な貸倒れさえ、涙より先に冷静に計上しようとする。
けれど彼女には、八年前のいちばん惨めな夜を見た、たった一人の証人がいた——十歳のあの日、庭園で震える自分から逃げなかった下働きの少女、専属侍女のミア。
仕立てられた偽りの罪状も、破れた手巾も、崩れかけた心も、ミアの器用な指が黙って繕い直していく。恥を握られた相手を、なぜ八年も手放さなかったのか。その答えにようやく気づくのは、辺境の朝、湯気の立つ一杯目の茶を、いつもと寸分違わぬ静けさで差し出されたときだった。
本作は桐生ひなたの「転生令嬢と二年前の忘れもの」シリーズ。一話完結・どこからでも。