逆さまの噂を貼られた薬師ですが、緩和病棟で薬包を折りつづけたら、主治医が毎朝七時四十分に薬事の棚を開けてくれます(雪村すばる )の注意事項

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ライトノベル
逆さまの噂を貼られた薬師ですが、緩和病棟で薬包を折りつづけたら、主治医が毎朝七時四十分に薬事の棚を開けてくれます
1巻配信中

逆さまの噂を貼られた薬師ですが、緩和病棟で薬包を折りつづけたら、主治医が毎朝七時四十分に薬事の棚を開けてくれます NEW

830pt/913円(税込)

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作品内容

【この作品は生成AIを使用しています】

朝のいちばん初めの仕事は、薬事の棚の前で医師を待つことだ。麻薬の受け渡しには立ち会いが要る。久我は毎朝七時四十分に上がってきて、白衣の内から鍵を出し、扉を開け、那智が数えるのを黙って見ている。数え終わると鍵をかけて、また白衣の内へ戻す。この手順が一日の始まりだった。
白瀬那智、二十九。薬師として七年、そのうち三か月前までは湊南中央病院にいた。ある医師に運命の番だと迫られて断ったら、白瀬が誘っておいて逃げたという逆さまの話が院内を回った。想像は必ず一つの形に落ちる。落ちた形は、もう剥がれない。夜勤から外され、第二性を理由に配置転換を求められ、居場所だけが少しずつ細くなって、辞表を出した。
移った先は三階の西病棟、緩和の八室。主治医の久我冬吾、三十八。医師になって十二年、この病棟を十二年預かっている。声が低く、指示が短く、噂では死を早める医者ということになっている。那智が独断で薬を二つに割る案を電話で伝えると、この人は理由を訊かずに、そのまま出してくださいとだけ言った。
痛みの目盛りは零から十まである。八十一歳の患者は三段階しか使わない。強いが四、たいへんが七、どうにもならないが九。夜だけ持続にして昼の覚醒を守る折衷案を出したとき、久我は投薬記録の決定者の欄に那智の名を書かせ、その隣に一行だけ書き足した。同席、久我冬吾。
五年前の夏、那智は応援でこの病棟に来て、七十二歳の男性に独断で既定の一・五倍を作った。その人は数時間後に亡くなった。書庫の棚には当時の当直日誌が、指一本ぶんの隙間を空けて立っている。配属の日から、那智はその前を何度も通り、通るたびに目を逸らしてきた。同じ晩、同じ部屋で、指示簿を書き換えていた人間がもう一人いる。二時四十分と、二時三十五分。二人は五分の差ですれ違って、どちらも見ていない。
第二木曜の午後、この人は白衣を脱いでよその病院へ行く。屑籠の一番上には、この病院で採用していない薬包の空き殻が捨ててある。那智は病名を訊かないと決め、日誌を開かないと決める。開かないと決めたぶんだけ、毎日の七時四十分が重くなる。
真鍮の鍵は十二年前に前任者から渡された。開けるより閉めるほうを覚えろ、と言われて。初夏から晩冬まで、緩和病棟の一年。BL・全10章完結。

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  • 逆さまの噂を貼られた薬師ですが、緩和病棟で薬包を折りつづけたら、主治医が毎朝七時四十分に薬事の棚を開けてくれます

    830pt/913円(税込)

    朝のいちばん初めの仕事は、薬事の棚の前で医師を待つことだ。麻薬の受け渡しには立ち会いが要る。久我は毎朝七時四十分に上がってきて、白衣の内から鍵を出し、扉を開け、那智が数えるのを黙って見ている。数え終わると鍵をかけて、また白衣の内へ戻す。この手順が一日の始まりだった。
    白瀬那智、二十九。薬師として七年、そのうち三か月前までは湊南中央病院にいた。ある医師に運命の番だと迫られて断ったら、白瀬が誘っておいて逃げたという逆さまの話が院内を回った。想像は必ず一つの形に落ちる。落ちた形は、もう剥がれない。夜勤から外され、第二性を理由に配置転換を求められ、居場所だけが少しずつ細くなって、辞表を出した。
    移った先は三階の西病棟、緩和の八室。主治医の久我冬吾、三十八。医師になって十二年、この病棟を十二年預かっている。声が低く、指示が短く、噂では死を早める医者ということになっている。那智が独断で薬を二つに割る案を電話で伝えると、この人は理由を訊かずに、そのまま出してくださいとだけ言った。
    痛みの目盛りは零から十まである。八十一歳の患者は三段階しか使わない。強いが四、たいへんが七、どうにもならないが九。夜だけ持続にして昼の覚醒を守る折衷案を出したとき、久我は投薬記録の決定者の欄に那智の名を書かせ、その隣に一行だけ書き足した。同席、久我冬吾。
    五年前の夏、那智は応援でこの病棟に来て、七十二歳の男性に独断で既定の一・五倍を作った。その人は数時間後に亡くなった。書庫の棚には当時の当直日誌が、指一本ぶんの隙間を空けて立っている。配属の日から、那智はその前を何度も通り、通るたびに目を逸らしてきた。同じ晩、同じ部屋で、指示簿を書き換えていた人間がもう一人いる。二時四十分と、二時三十五分。二人は五分の差ですれ違って、どちらも見ていない。
    第二木曜の午後、この人は白衣を脱いでよその病院へ行く。屑籠の一番上には、この病院で採用していない薬包の空き殻が捨ててある。那智は病名を訊かないと決め、日誌を開かないと決める。開かないと決めたぶんだけ、毎日の七時四十分が重くなる。
    真鍮の鍵は十二年前に前任者から渡された。開けるより閉めるほうを覚えろ、と言われて。初夏から晩冬まで、緩和病棟の一年。BL・全10章完結。

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