宿を売られかけた女中頭ですが、留め結びの布巾を添えつづけたら、よそ者の支配人が通るたび初代の帳面を読み返してくださいます(沖永りく )の注意事項

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漫画(まんが)・電子書籍のコミックシーモアTOPTL(ティーンズラブ)TL小説Realize出版C-Trap ROMANCE宿を売られかけた女中頭ですが、留め結びの布巾を添えつづけたら、よそ者の支配人が通るたび初代の帳面を読み返してくださいます宿を売られかけた女中頭ですが、留め結びの布巾を添えつづけたら、よそ者の支配人が通るたび初代の帳面を読み返してくださいます
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宿を売られかけた女中頭ですが、留め結びの布巾を添えつづけたら、よそ者の支配人が通るたび初代の帳面を読み返してくださいます 発売予定

830pt/913円(税込)

8/14(金)発売予定

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作品内容

【この作品は生成AIを使用しています】

谷の奥に一軒だけある湯宿、鷺洞館。深沢佐和、二十九。十五で女中に上がって十四年、深沢の家は四代この宿の女中頭を務めてきた。四年前に先代が死に、屋敷が人手に渡るという話が谷じゅうに流れた冬、佐和は帳場の前で言った。屋敷が残るなら誰の下でもいい。それを聞いたのは古参の女中と男衆の頭だけで、以来この宿では、言わないでいることが仕事のやり方になった。
初春、外から来た支配人が表玄関ではなく内玄関から入ってくる。鷲尾湊、三十五。女中と男衆合わせて十六人が並んで、誰ひとり口をきかない。しゃべるなとは言っていない。言わなくても、この四年でそうなった。湊はその晩のうちに帳場の客帳を初代から読み直し、五十四年ぶんの帳面から宿の穴を数え上げる。膳が一人前三十五銭、材の元が二十二銭。人の給金だけで泊まり賃を二十四円食い越している。四年、誰もその紙を開かなかった。
佐和は湊の膳にだけ、布巾の端を留め結びにして添えた。ふつうの結びは異常なし。ひと重ねは今夜は無理をするな。二重にすれば今夜は帰るな。四代のあいだ女中衆のあいだだけで通ってきた結び目を、この男は一日で見分けて、意味を訊く前に手を止めた。
隣の谷に新しい宿が建つという触れが出る。古参の男衆が三人、高い給金で引き抜かれる。やがて谷の湯の湧き口まで買い取られて、鷺洞館の湯を止めると触れが回る。隣の谷の女中頭に深沢の名で来いと持ちかけられ、佐和は断った。秋には屋敷の親族が支配人の解任を持ち出し、佐和に見限るよう求めてくる。
そのあいだじゅう、佐和が帳場の前を通るたびに、湊の膝には背の糸が見えるほど古い初代の一冊が載っている。三月にも読んでいた。八月の終わりにも読んでいた。なぜと訊いても、この人は「はい」としか答えない。手の甲には、灰で灸をすえた古い凍傷の痕が残っている。袂の中では何かを削る音がして、出しかけては、しまう。十一年前の一月にこの宿の賄い場で何があったのか、佐和のほうは何ひとつ覚えていない。
言わないでいることは四代ぶん練習してきた。言うことは一度も練習していない。二十九年、この喉が出したことのない音が出るまでの、初春から初冬まで。TL時代小説・全10章完結。

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作品ラインナップ 

  • 宿を売られかけた女中頭ですが、留め結びの布巾を添えつづけたら、よそ者の支配人が通るたび初代の帳面を読み返してくださいます
    8/14(金)発売予定

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    830pt/913円(税込)

    谷の奥に一軒だけある湯宿、鷺洞館。深沢佐和、二十九。十五で女中に上がって十四年、深沢の家は四代この宿の女中頭を務めてきた。四年前に先代が死に、屋敷が人手に渡るという話が谷じゅうに流れた冬、佐和は帳場の前で言った。屋敷が残るなら誰の下でもいい。それを聞いたのは古参の女中と男衆の頭だけで、以来この宿では、言わないでいることが仕事のやり方になった。
    初春、外から来た支配人が表玄関ではなく内玄関から入ってくる。鷲尾湊、三十五。女中と男衆合わせて十六人が並んで、誰ひとり口をきかない。しゃべるなとは言っていない。言わなくても、この四年でそうなった。湊はその晩のうちに帳場の客帳を初代から読み直し、五十四年ぶんの帳面から宿の穴を数え上げる。膳が一人前三十五銭、材の元が二十二銭。人の給金だけで泊まり賃を二十四円食い越している。四年、誰もその紙を開かなかった。
    佐和は湊の膳にだけ、布巾の端を留め結びにして添えた。ふつうの結びは異常なし。ひと重ねは今夜は無理をするな。二重にすれば今夜は帰るな。四代のあいだ女中衆のあいだだけで通ってきた結び目を、この男は一日で見分けて、意味を訊く前に手を止めた。
    隣の谷に新しい宿が建つという触れが出る。古参の男衆が三人、高い給金で引き抜かれる。やがて谷の湯の湧き口まで買い取られて、鷺洞館の湯を止めると触れが回る。隣の谷の女中頭に深沢の名で来いと持ちかけられ、佐和は断った。秋には屋敷の親族が支配人の解任を持ち出し、佐和に見限るよう求めてくる。
    そのあいだじゅう、佐和が帳場の前を通るたびに、湊の膝には背の糸が見えるほど古い初代の一冊が載っている。三月にも読んでいた。八月の終わりにも読んでいた。なぜと訊いても、この人は「はい」としか答えない。手の甲には、灰で灸をすえた古い凍傷の痕が残っている。袂の中では何かを削る音がして、出しかけては、しまう。十一年前の一月にこの宿の賄い場で何があったのか、佐和のほうは何ひとつ覚えていない。
    言わないでいることは四代ぶん練習してきた。言うことは一度も練習していない。二十九年、この喉が出したことのない音が出るまでの、初春から初冬まで。TL時代小説・全10章完結。

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