八年指揮台に上がれなかった副指揮ですが、頁をめくりつづけたら、常任指揮者が稽古を毎回録って三百二十四本ためておられます(海堂すみれ )の注意事項

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漫画(まんが)・電子書籍のコミックシーモアTOPTL(ティーンズラブ)TL小説Realize出版C-Trap ROMANCE八年指揮台に上がれなかった副指揮ですが、頁をめくりつづけたら、常任指揮者が稽古を毎回録って三百二十四本ためておられます八年指揮台に上がれなかった副指揮ですが、頁をめくりつづけたら、常任指揮者が稽古を毎回録って三百二十四本ためておられます
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八年指揮台に上がれなかった副指揮ですが、頁をめくりつづけたら、常任指揮者が稽古を毎回録って三百二十四本ためておられます 発売予定

830pt/913円(税込)

8/14(金)発売予定

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作品内容

【この作品は生成AIを使用しています】

二百十六から三つ、と神崎が言った。指揮棒の先で総譜の頁を叩いてから、手首だけを返す。四十二人ぶんの合奏がそこで一度に止まる。私は神崎の右うしろに立っている。副指揮の位置はここだと八年前に決められて、以来ずらしたことがない。
灰谷結衣、三十一。この楽団で唯一の女の指揮者で、そのうえ唯一の副指揮だ。八年、一度も指揮台に上がっていない。上がるなと言われたわけではない。ただこの人が降りないので、上がる場所がなかった。
神崎守道、五十八。三十四年ぶん指揮台に立っている常任指揮者。稽古場はもと中学の体育館で、床には二十年前の白い線がそのまま残っている。線を消す金がなかった。
神崎の総譜には鉛筆の数字が入っている。小節の頭の余白に、ぽつぽつと、数字だけ。二百十六の頁の余白には三と書いてある。二百四の頭に八。二百二十七の頭に一。楽団の備品の総譜には何も書かれていない。この人の私物だけだ。
八年、私はその意味を知らない。訊いたことは三度ある。三度とも、言い終わる前に別の話になった。
二百十六で、神崎は腕を上げたまま三小節、振らない。四十二人はその三小節を、誰の合図もなしに渡りきる。三十四年、この人はそうやってきた。
晩春、病院の紙が上着の内から出てくる。来年の春はない。その次はお前だ。私は見出し紙の束を床に叩きつけて、拾わずに出た。
神崎の家の奥の洋間で、私は八年ぶんの録音を見つける。番号は三百二十四。全部に、灰谷、と書いてある。毎回録ってたんですか。録った。三百二十四回聞いて、この人はいいとも悪いとも言わなかった。
総譜を借りて、私は頭から全部の頁を手帳に写した。第一楽章に十四か所、第二楽章に四か所、第三楽章に十一か所。全部で六十三か所になった。伸びるところと立ち止まるところにだけ数字がある。そこまでは分かる。その先が分からない。
役員は後任の公募へ動く。神崎は代わりは立てんと言って拒み、その公募の文面を、私が書かされる。夏の通しの途中でこの人が指揮棒を落として立てなくなり、私は八年ぶりに、というより初めて、指揮台に上がった。
私が欲しかったのは席じゃない。あの三がなんなのかを、一度だけ聞くことだった。
六十三の数字は、一から順に聞いていく録音の途中で、読んでいるあなたにも自分で解けます。TL長編小説・全10章完結。

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