事故で両親と姉を亡くした男が姉の息子と海辺の街で二人暮らしを始める。そしてそこで知り合った惣菜屋の店主と仲良くなっていくお話。
たった1冊の本だとは思えないくらい内容が深く、人物たちの背景や心情が過去から現在まで丁寧に描かれています。
勇一と歩が最初はギクシャクしてしまうのも、それまでとは関係性が変化しているから。お互いに責任感と孤独感を強め、好きだという単純な気持ちを伝えにくくなっていましたが、そこでいいスパイスになったのが陵だったと思います。勇一には理解ある大人の一面で、歩には飾らない素の一面で接し、彼らの心に自然と寄り添った形になったことで二人の間のクッション的存在になったんだと思います。
そしてそんな陵も勇一の真っ直ぐな想いに惹かれていきます。歩と過去の自分を重ね、歩のように愛されたかったという心の奥底に眠っていた願望が掘り起こされてもがく姿は彼のそれまでの苦しみを良く表していたと思います。陵が欲しかったのはただの愛ではなく、親のように慈しんで無限に愛を与えてくれる安心感のある人だったんだなと感じました。
3人が好きという気持ちに素直になってからは絶妙なパワーバランスでいい関係性が築けていて、とても幸せそうで良かったなと思いました。陵は勇一といると子供のような表情になるのが可愛かったです。勇一を取り合う陵と歩は本当に微笑ましく、もっとその幸せな姿を見ていたいと思う作品です。
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