読み応えは全480頁というボリュームからその通り(∴価格高い)なのだが、何を思って何に感じてどう描こうかと思ってなのか、ということをも知れるスタイルで編まれている。
「ゴールデンライラック」(156頁)が収録されてる。既読者は其れを超える
魅力を感じれば踏み切るといいと思う。
カラー頁は、やはりいい。
原画の美しさ(実物にはかなわないが)を活かしたイラストギャラリーがあり、見開き頁を2として13頁。全ての漫画作品に製作背景の簡単な解説付き。特に「ゴールデンライラック」には、「まんがABC」として、思考の過程も見せる頁があって、これが私には面白かった。
以前宮崎駿監督の、こうしたドラフト的なもので方向感を探る整理が、映画の宣伝材料に使われていて、それを読んだとき、決して好きなように描いているだけなのではない、見る人の目や周りを意識してあれこれ目配りする姿を知って、だから凄い結果が現れてくるんだと感じ入ったことがある。
本作も、萩尾望都先生が漫画家としてこうも長く読み手を惹きつけるのは、周到さ緻密さと、アイディアの3題話的な巧みなコンビネーションが、制作の向こう側にあることを、見せつけられた気がしてきた。
85年の「きみは美しい瞳」(41頁)と、91年の「ジュリエットの恋人」(51頁)以外は70年代作品。「ママレードちゃん」(24頁)「妖精の子守り」(16頁)「秋の旅」(25頁)「6月の声」(32頁)「オーマイ ケ セィラ セラ」(46頁)、そして1978年の「ゴールデンライラック」。年代を区切ってその間に発表された作品名一覧がある。トラベルブックという萩尾望都先生のイラスト旅行記が30頁近くもある。
70年代から行かれている海外への旅は恐らくイマジネーションをもの凄く刺激されていると想像できるが、事故のくだりは、ご無事でいてくれてその後も活躍してくださってホント良かったと、胸をなで下ろす気持ちで読んだ。
2010年の米国インクポッド賞のご受賞はおろか、2022年の米アイズナー賞で「コミックの殿堂」入り、旭日中授章も無かったかも知れなかったかと思うと、この才能溢れる漫画家が生まれてきてくれて活躍し続けてくださって、こうして創り出してきた作品を読むことが出来る自分、奇跡というのか、偶然の重なりというのか、よかったなぁわたし、という気持ちになる。
追記)ロンドン滞在の話は、「フランスはとにっき」を読み終えたばかりの私にはまた余計に興味深かった。
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