山麓の村で薬草売買を生業にしているオンブラがある日引き会わされたのは、病気の友のためにとある薬草を探しているというシリウス王子。協力する代わりに山中にある小屋で家事をすることを求めるが、オンブラには屈託があるようで…?と始まるお話。
小屋
への道中、オンブラの無自覚な気遣いに気づくシリウスに、あぁこの人はただ蝶よ花よと一方的にかしずかれてきただけの王子ではなさそうだと分かります(後にその一端が明らかに)。人に優しくした経験がなければ、人からの何気ない優しさには気づけないはずですから…。ある方のレビューにある「無垢で曇りがない分、芯が強い」という表現がピッタリです。
他方オンブラは憎しみを滾らせているようでいて、因縁ゆえに憎まなければならないんだと必死に自分に言い聞かせ奮い立たせている様子が見ていて辛い。時に愛と憎しみは背中合せの感情で、「憎みたい」は即ち「愛したい」と同義となるもの。子どもが背負うにはあまりに重い枷をよくぞ耐えてきたねと言ってあげたい。きっと今日も、どこかの空の下で、シリウスの可愛い誘いに抵抗できずにいることでしょう。
1ミリの誤解の余地もないほど細部まで丁寧に説明された作風で、読み手はハッピーエンドを信じて読んでいけます。素敵なおとぎ話でした。
もっとみる▼