一体どこに連れていかれるのか、途中経過も着地点も予想しにくい。そこはD・キッサン先生の作風で、この頁数ならひと山、もっと長ければ幾つかの山、というような感じではなくて、変化と平場の不測の繋ぎで物語が紡がれていき、いつの間にか結末到来。次々と
揺さぶられる、細切れの場面転換が連続する、何かがこれから起こるのかもしれない矯めの間に無関係エピソードをじっくり見せつけられる、などなど、繰り出される玉や飛ぶコースが多彩過ぎて、見た目実に自由奔放縦横無尽。日本物ファンタジー物、現代物歴史物、いつどこを舞台にしてもそれらしい絵なのがまたすごい。
既に別作品でわかっていたことだが、豊富な知識量に裏打ちされていて、俄か取材で得たような付け焼刃には感じない。既に蓄えられた大きな基盤からいかなる方向にも行ける、という応用力を見せつけられ、才能の源泉は汲めども尽きぬ、と感じる。鋭敏で的確な言葉が使用されていて、それでいながら、くだけていて、どの世界のどの時代の言語も読者に翻訳してくれているかのよう。
絵は思わせぶりなムード作りがされていて、何をどういう角度で絵にしているか、工夫なのか天性なのか、ミステリアスさやファンタジックさ増長。この才気溢れる漫画家の、四方八方に広がっている世界、向かう関心や対象の多様さが、出版側から注文つけられずに開花している印象で、捉えどころのない作品が並び、「短編集」とはいうものの、1作品ごと独立感相当強い。テーマの無い作品群で、各作品の個性が競うように華やか。
表題作74頁、「鞠めづるヒトビト」34頁、「或る婦人」44頁、「シスターシスター」32頁、「似せ者同士」16頁。その他作品解説頁など。タイトル付けのセンスがまたよい。
表題作は着想も設定も魅力的だが、読者に少し親切ではない感じがした。ただし、大衆に迎合しては作品は本物にはなれないとも思えるので、孤高でいいのでは、とは思う。
「シスターシスター」は「無料お試し読みサッシ KISSAN Collection」にも収録されており、重複。
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