「この兵舎という場所にいて…
勃起したのは初めてだった――…」
1945年3月。
2週間も何ひとつ戦果を上げられず、ばくちのような出撃は軒並み空振り、
鬱憤のたまった兵たちのケンカに、「作戦会議」と称した宴会……と、
その日は生真面目な坂ノ上庚二少佐にとって、とにかく不愉快な一日だった。
乱痴気騒ぎに嫌気がさし、見廻りを口実に宴会を退出した坂ノ上は、
兵舎に戻るや否や、慌てて逃げる人影を目撃した。
「…ああ、面倒くさい」
犯人捜しをせねばならぬ状況にまたしても苛立ちを募らせていたその時、
空き部屋から何かが動く物音を聞いた。
胸騒ぎを覚えながら扉を開くと、そこには凌辱された男が……。
伴勇人一飛。
敵機の撃墜量も多いがケンカ早く、上官への態度もすこぶる反抗的で、兵士とも諍いばかり起こす問題児。
そんな男が、いま目の前で、あられもない姿をさらしている……
坂ノ上は我知らず―――……
一つの夜をきっかけに絡まり合う歪な二人の縁。
己の業深さに直面するとき、漢は産声を上げる――……。
特攻隊を舞台に繰り広げられる、漢たちのアツき魂のいななきを、濃厚な筆致と人物描写で描きあげるオムニバスストーリー、雄叫びの第七夜。