ヒロインは親に愛情をかけられて養育されなかった。
姪のニッキーをブライアンは全力で愛し守っていた。
お話の世界では子どもが年齢に不釣り合いな言動が書かれてることがしばしばだが、本書はその年齢、という絞りが効いている。ニッキーのブライアン
に対する遠慮がまたニッキーのキャラというものを示して、胸が痛い。惨事で受けた二人の傷と、辛い日々を、もがいて兎に角建て直そうとするブライアンのキャラも伝わって来て、情の深いところが魅力。私は彼の考え方や振る舞いに最初から最後まで、男性として、人として、理想像みたいなものを感じた。一方自分を罰するように生きてきたジェニファーの過去の呪縛も、簡単にはほぐせない。痛々しく凛々しく、気品と気丈さとで、頑張って築き上げた王国の成功は、過去の悲しみからせめてもの慰みとなっていること、読んで安堵もある。また今の人間関係に恵まれていることも、冒頭の辛い出来事を薄めてくれる。
この三者三様の人間描写に無理がなく、細やかに説明を尽くしているため、ご都合主義などと(当人にそう言わしめたのも、ストーリー進行上嘘臭さを逆説的に乗り越えたプロセスとなった)鼻につかない堅固な構成。
5年以上前に名手小林博美先生コミカライズのほうを読んで、コミックはコミックで美しさを保って仕立て上がっていて、良かった。既にコミックに5星を付しているが、同列に出来ないもののこちらは5星以上に感じる。ある水準以上のコミックだと、原作のほうが無駄な回りくどさ、もってまわったドラマを作らんとの大袈裟な語り口を鬱陶しく思うことがあるが、この原作に冗長感は無かった。理解に必要な時間や回数を認識させてこの積み重ね描写が自然だった。
丁寧に掬い取って進行するため、3人がしっかり自分にとっての重要性を相互に確証するさまに揺るぎなさも感じるのだ。
過剰な服装説明がないぶん、シンプルに雰囲気もまっすぐ把握出来たが、唯一、青と黄のサスペンダーがアメリカ人あるあるのカラーシャツオン奇抜ネクタイルックの上を行く、広告業界人臭強すぎて、しかも珍しくカラフルなスタイルの説明、浮き上がって空回りを感じた。わざと、なのか?
またクラシックコンサートの中座、しかも携帯電話、がマナー違反と感じて、私が読み取ってきたブライアン像にヒビを入れた。
しかし二人の関係描写が、透明感と真っ直ぐさがあって、全編気持ちがいい。
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