結納の席で家を捨てた代書屋ですが、港町で人の紙を書きつづけたら、あの家の当主が年に一度来ては黙って帰っていかれます(海堂すみれ )の注意事項

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漫画(まんが)・電子書籍のコミックシーモアTOPTL(ティーンズラブ)TL小説Realize出版C-Trap ROMANCE結納の席で家を捨てた代書屋ですが、港町で人の紙を書きつづけたら、あの家の当主が年に一度来ては黙って帰っていかれます結納の席で家を捨てた代書屋ですが、港町で人の紙を書きつづけたら、あの家の当主が年に一度来ては黙って帰っていかれます
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結納の席で家を捨てた代書屋ですが、港町で人の紙を書きつづけたら、あの家の当主が年に一度来ては黙って帰っていかれます 発売予定

830pt/913円(税込)

8/16(日)発売予定

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作品内容

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あれ、千鶴さん、なんだべその紙は。戸羽のおかみが土間から首を伸ばして、柱に貼ったばかりの紙を見上げた。手紙一通八百円。願い状千五百円。詫び状二千円。訳が半日で三千円。いちばん下の一行だけ、空けてある。
芦名千鶴が北の駅に降りたのは十一年前の初夏だった。二十二だった。西の家の結納の席で、最後の一行を読み終えたとき、この人は立った。何も訊かれないまま座っている人間は、その家の数の中に入っていない。
それから十一年、この港町で代書屋をしている。人の紙を書く商売だ。朝は五時に合羽と長靴を土間から出して、漁港の聞き取りに出る。やませの朝は、灯台の根元しか見えない。
厚東雅人、四十一。二十三で厚東の家を継いで十八年。この男が一つ頷けば二千人が仕事の中身を変える。十一年、年に一度この町へ来て、十一回とも黙って帰っていった。板戸を引いたのは、十三度目のことだった。
名を訊かないまま引き受けた願い状の、差出人の欄に厚東雅人とあった。五万円ございます。千五百円だ。四万八千五百円、持って帰れ。
厚東の言葉は、この町に一語も通じていない。千鶴は通訳として漁港に立つ。三月で覚えます、と寄合所で言って笑われた男は、長屋を言い値の三倍、千四百四十万で買い、そのあと百四十四万を捨てて売買を白紙に戻す。
厚東は行李一つで南の一軒へ移り住んだ。革靴は使えない。千鶴は自分の合羽と長靴を貸す。返せと言われたその日、この人は洗わないまま土の上へ返して、それから浜に立てなくなった。
店から客が消えた。この町で値を書いた紙を貼ったのは、千鶴が初めてだった。
千鶴は柱に五行目を足した。町の衆も、右と同じ額をいただきます。十一年ぶんの無料仕事に、そこで区切りがつく。同じ日、厚東家へも同じ額の請求書を出した。
十二月二十日、町の依頼が千鶴の店へ戻りはじめる。切符は四千二百円。十一年前と同じ額だった。
この町の言葉を五百四十まで覚えて、意味の分かるやつが二百十一。九十二日目に、誰が置いたか分からない黒い合羽を着た男が、通訳なしで爺さまの話を返した。
四千二百通、四十二束。そのうち自分のために書いた紙は零。親族十九人の前で、千鶴が自分の口で額を言うまで。TL長編小説・全10章完結。

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  • 結納の席で家を捨てた代書屋ですが、港町で人の紙を書きつづけたら、あの家の当主が年に一度来ては黙って帰っていかれます
    8/16(日)発売予定

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    830pt/913円(税込)

    あれ、千鶴さん、なんだべその紙は。戸羽のおかみが土間から首を伸ばして、柱に貼ったばかりの紙を見上げた。手紙一通八百円。願い状千五百円。詫び状二千円。訳が半日で三千円。いちばん下の一行だけ、空けてある。
    芦名千鶴が北の駅に降りたのは十一年前の初夏だった。二十二だった。西の家の結納の席で、最後の一行を読み終えたとき、この人は立った。何も訊かれないまま座っている人間は、その家の数の中に入っていない。
    それから十一年、この港町で代書屋をしている。人の紙を書く商売だ。朝は五時に合羽と長靴を土間から出して、漁港の聞き取りに出る。やませの朝は、灯台の根元しか見えない。
    厚東雅人、四十一。二十三で厚東の家を継いで十八年。この男が一つ頷けば二千人が仕事の中身を変える。十一年、年に一度この町へ来て、十一回とも黙って帰っていった。板戸を引いたのは、十三度目のことだった。
    名を訊かないまま引き受けた願い状の、差出人の欄に厚東雅人とあった。五万円ございます。千五百円だ。四万八千五百円、持って帰れ。
    厚東の言葉は、この町に一語も通じていない。千鶴は通訳として漁港に立つ。三月で覚えます、と寄合所で言って笑われた男は、長屋を言い値の三倍、千四百四十万で買い、そのあと百四十四万を捨てて売買を白紙に戻す。
    厚東は行李一つで南の一軒へ移り住んだ。革靴は使えない。千鶴は自分の合羽と長靴を貸す。返せと言われたその日、この人は洗わないまま土の上へ返して、それから浜に立てなくなった。
    店から客が消えた。この町で値を書いた紙を貼ったのは、千鶴が初めてだった。
    千鶴は柱に五行目を足した。町の衆も、右と同じ額をいただきます。十一年ぶんの無料仕事に、そこで区切りがつく。同じ日、厚東家へも同じ額の請求書を出した。
    十二月二十日、町の依頼が千鶴の店へ戻りはじめる。切符は四千二百円。十一年前と同じ額だった。
    この町の言葉を五百四十まで覚えて、意味の分かるやつが二百十一。九十二日目に、誰が置いたか分からない黒い合羽を着た男が、通訳なしで爺さまの話を返した。
    四千二百通、四十二束。そのうち自分のために書いた紙は零。親族十九人の前で、千鶴が自分の口で額を言うまで。TL長編小説・全10章完結。

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