この作品に出会ったのはBLにハマった初期にこの衝動はどうして生まれるのか知りたくて読んだ「BLの教科書」(これ面白いですよ!)でよしながふみさんの発言や作品に興味を持ったからでした。読み出すと同世代の自分が学生だった90年代頃のキャンパスの
情景が蘇るリアルな描写に惹かれました。
作者様が卒業したK大法学部(大学院進学後中退)を舞台にしたそうで納得。附属校上がりの内部生と大学から入学した外部生が混在して、とりあえず卒業できればOKなメンツと少数ながら学問を志す者の雑多なエネルギーが混在したキャンパスのリアルな空気感の中、まだ自分のセクシャリティが定まらない優秀な外部生田宮と、代議士の息子で親の意向で自分の意思とは無関係に法学部に進学させられたゲイである藤堂が知り合い、2人の距離がゆっくり近づく様子が描かれます。
この文庫版のいいところは、連載版の田宮が次第に自分の性的指向を見定めていく過程を藤堂がゆったりと寄り添う心情面重視のパートと、それから7年後の田宮が刑法の助教授になってからの大人シーン有りの同人誌掲載の同棲生活パートが同時収録されているところなのです。なんせ、総ページ数478頁。読み応えたっぷりです。そして昼は学生をうっとり、時にはゲッソリさせる田宮が、夜、藤堂に抱かれるときの色っぽさよ…。ツンデレ受けなので、発言は素直じゃないのですが萌えます。また、田宮の学問に対する真摯さの描写は、作者様自身の経験が反映されているように思えてトキメキます。
メインCP以外の藤堂の弟宏明と、同大学教授で可愛いオジ様伊藤CPの物語は優秀でミステリアスな年下攻めに翻弄される教授の戸惑いを堪能できると共に代議士という親の期待や価値観に対峙していこうとする成長物語でもあります。
最後の「彼は美しい人だった」は宏明とその先輩佐々木を描いた物語。こちらは、親の期待に応えようとした末の切ない物語で、宏明と伊藤の物語と対になっています。
発表時期は96年〜2002年ですが、背景描写がリアルで、キャラも個性的で今読んでも面白い。もしかしたら田宮みたいな学生が同じ空間にいたかも…と考えるとキュンとします☆
性的指向の多様化は知られてきても、親に伝えるのはハードルが高いですよね。娘の友達は親にカミングアウトできず関係も拗れたと聞いて胸を痛めていた折、素晴らしいレビューに触れ親として感銘を受けました。
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