本来BLを読む楽しみは、背徳感と幸福感を同時に味わう事だったと思う。
イケナイコトを覗き見る時にドーパミンが出てしまう性を、無意識のうちでも肯定した人だけが受ける恩寵が、この世界には有る。
だが昨今は男同士だから背徳(異常)となど、バカ
しか言わない。
ならばそれに代わる背徳を用意せねばならない。
その点で今作はBL読みの原点回帰を呼び覚ましてくれた。
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今作を背徳の物語たらしめる鍵はキャラクターにある。
特殊な環境で育った超絶美人、フェロモンを異常に撒き散らす受け。
軽薄な正義感を持つ警察官、頑固でおバカでお人好しな攻め。
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人が環境に容易く左右されてしまうのは、歴史を顧みればわかる。
例えば戦時中、例えば大飢饉。
倫理が根底から覆され、または無いものとされる世界。
作中の受けは幼少時から「お父さん」を喜ばせる事が世界の全てであり、それがセック スであった。
この強烈な過去を持つ受けの倫理観を一般向けに矯正するなど、攻めにとっては不可能に等しい。
攻めは自分の欲望と正義感の狭間で悩み苦しむ。
彼がもしも快楽主義者だったら、
もしも正義に頓着しなかったら、
せめてもしも自分を理解していれば。
こんなに「イケナイコト」にはならず、憐れな美人が貪り尽くされるだけのエロ本になっていただろう。
劣情にギリギリで負けた先にある背徳感は、莫大な快楽を与えてくれるのだ。
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今作はえっちシーンが多く、受けはかなり肉感的、シチュエーションも最高でNTRも多い。
しかしエロを楽しむのではなく、背徳感を最大限に享受するための作品だと思う。
仄暗い己れの感情に向き合って、自分がイケナイコトを楽しめる人間であると思い知ればいいのだ。
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