「ふいに言葉を失った/私は何を言おうとしたのだろう」には、ヒロインのその時の状況がにじんでいた。絵が語っているのでもないのに、絵の配置と言葉の繋がれ方、そして、頁が改まったひとコマ目の人物の登場のさせ方だけでわかる。
モノローグの切り取り
方、その時のコマ一つ一つの提示の仕方が、語りの効果を盛り立てる。言葉数が多いわけではなく、ヒロインの心の声のスッキリとしたストレートさが、読み手のこちらに、彼女の心の風景を想像させるのだ。絵は寧ろニュートラルで、感情過多にぶつけない。台詞ではなく、小説風ナレーションで心の内面を伝えてくるために、一歩引いて眺めるなかに、より逆説的に生々しい心情を落ち着いて見せてくる。
その距離感がいい。不思議な間がある。
ジェーン・エアや、レベッカなど、使用される本歌取りのような小説の利用の仕方が、舞台背景として劇中劇のひとコマの味わいで、巧みな展開だった。
丁寧な描かれ方で荒れがないタッチ、随所に表れる人物以外のコマの細やかさが頁をめくる楽しさを膨らます。
簡単に家庭教師と出来ちゃったら話が簡単すぎて物足りなくなる、という以前に、小説の人物像とダブらせられない。その辺を、イギリスのやや暗い空の下で前妻の影に苦しむというのではなく、カラリとした南国調の風合いの環境で、美しい星空やさっぱりとした気性の人間関係の中に、去った美しい彼の元妻を越えられないヒロインの限界感を軽やかに映す。
そして、自分で壁を片付ける。自分の心を偽らず貫くこと。彼女の心を伝えてきたナレーションがそのとき、彼女の口から直に発する形へ。
ストーリーは、ブラジルが舞台という以外にこれといったユニークさがない。だが表現方法は良かった。
私は本作の男性のビジュアルは所々微妙なのだが、それを忘れる位、彼の積極さを示す何回かのエピソードが嫌味なく収まっていて、爽やかに読み進められた。お断りすると態度が豹変するレベルの低い人間はおらず、ただ避けられる?というナチュラルなその後。ヒロインが越えられないで退ける一線へのためらいの心理を理解しているわけではないのに、何度も真っ直ぐにぶつけてくる彼。折に触れ自分に正直な欲求を彼女へ表す、フェアで或る意味不屈さが男らしい感じ。
只余りにも都合よく周囲が不在のタイミングに、これはお話だから、とは思っても少し出来すぎ感が強かった。
原題の主旨不明。
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