失われた愛の記憶
」のレビュー

失われた愛の記憶

ケイト・ウォーカー/藤田和子

封印されたような部屋を見て記憶の扉が開く

2018年7月29日
記憶喪失ものがHQはラインナップ揃え過ぎているので、正直このストーリーに目新しさは無かった。復活愛のプロセスを、藤田先生の絵柄で楽しむ趣向と割りきって読んだ方が良さそう。なぜ記憶を?、何があった?、との一種の謎解きの含みが、物語進行を引っ張る。

何度も頭をよぎるエスカレーターの光景は、 イブには胸ときめくいいものとして、記憶をなくしたイブの心をノックしていた。彼にしてみれば二人しか知らないことを、公然としてくるような行為、何を考えてるのか、と乗り込むのは当然の成り行き。
甘い恋人時代、結婚してからのすれ違い、肝心なときに居てくれないーと。

恋人時代に戻ったような振り出しから始まる過程が気持ちは素敵だし、彼にしてみれば二年ぶりに見つかった妻がまさかの記憶喪失、自分とのことを忘れ去られているなんて、なかなか受け止めきれない。

それにしても、イヴを住まわせている一家の有り難さ、優しさ、人間性の高さにはひれ伏すしかない。


二人で過ごした家に行って住んでみても なかなか思い出せず物語は終わりに差し掛かる。
夫だという彼のことを好ましく思う気持ちは、記憶の回復とは無関係のところをたっぷり描くことによって、確かなものだと感じ取らせてくれる。二人の関係は何らかの事があって記憶をなくしたけれども、決してダメなわけじゃないと、読み手に説得力を持たせている。

絵は安定の藤田先生の力で、彼のヒロインへの愛情、記憶喪失で分からなくなっている姿とか巧みに伝わる。

「匂い」による回復を期待する庭のシーン、そこが少し自分としては違うビジュアルを思う。

秋元先生の「閉ざされた記憶」を読み返したくなった。
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